<i>――ねえ、覚えている?
入学式。
期待に胸を膨らませ、昇る坂道。
舞い落ちる桜の花びらが、私たちを祝福するように降り注いでいた。
それは、小高い丘の上に建っていた。
私の夢、私の希望、私の未来――
あなたはいったい、どれだけの私たちを受け入れ、生き長らえてきたのか。
あなたはいったい、あとどれだけ、私たちを受け入れ、生き続けてくれるのか。
大人になりたかった。
立派な大人に。
子供でありたかった。
無邪気な子供のままで。
何かが欲しかった。
何かが得られると思った。
この場所で――
いったい私に、何ができただろう。
いったい私に、何が残っただろう。
何を、得たのだろう――
たくさんの教室、たくさんの机、たくさんの制服、たくさんの人。
大きな箱の中に、大きな枠がたくさん。
大きな枠の中に、小さな枠がたくさん。
小さな枠の中に、たくさんの私。
私たち――
それらによって作られた大きな箱が、ひととき私たちを表し、構成する全てだった。
箱の中に構成された、私たち――
私たちで構成された、箱――
開放感と圧迫感。
連帯感と疎外感。
親近感と嫌悪感。
常に相反するものが等しく混在し、ゆがんだ調和を保つ。
ひどく醜悪で、しかし居心地の良い空間。
それは、まるで――
――羽化する前の、さなぎのようね。
誰かが、私につぶやいた。
あるいは、それは私自身のつぶやきだったのかもしれない。
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