田中文「うっかり陛下の子を妊娠してしまいました」(ガンガンコミックスUP!)

なろうコミカライズ。

タイトルで既に強いっていうか、「なろう系タイトルどれだけ知ってるか・ホントに実在して売られてるかマウント対決クイズ」やろうと思ったら切り札の1枚になるよなというか。

タイトルに負けず劣らず内容も絶妙にキツいっていうか、絵がしっかりしてるので読めてしまうんだけど、ストーリーとしては本当にタイトル通りのことしか起こらない。なにせ、主人公であるヒロイン、基本的に妊娠、出産以外に目立って能動的な行動をなにもしないんすよ。政略結婚で第二妃として嫁ぐのも父親の指示によるものだし、宮廷入り後も目立たないよう過ごすし、妊娠したら当然ながら動かないし、出産したら子供のために動かないし、もう、ひたすら動かない。行動を起こさないことが政治的に適切な立ち居振る舞いだからという理屈で、周囲の状況をただ眺めるだけの話がコミックス全2巻のあいだずーっと続く。ハーレクインロマンスってヒロイン基本的に受動で何もしないって聞くけど、その系譜なのかな? ホントに今どき珍しいぐらい行動らしい行動を起こさない。

ただ我慢して、耐えて、じっとして、口を閉じて、外に出ず、が続く。

何が面白いの? ってなると思うんだけど、実際に面白いかどうかはかなり人を選ぶと思うんだけども、テーマ的には、ただひたすら呪うことなんだよね。

女性が財産と地位権力を相続することも一般的に認められてる地域から、女性の位置づけが子を産む道具、血統を守るためだけの機械としか見なされてない地域に嫁いできて、その何もできない状況に押し込められ続けることへのストレスをそのまま提示して呪詛としてる。政略結婚だし、愛はないけど、いちおうヤることはヤるし、それでいて愛はないから1回きりだし、その1回がドンピシャで当たるし、当たったことで周囲が勝手に思惑を張り巡らすし、妊娠は呪いだとつくづく思わされるのに、生まれた子供へは愛情を注ぐし、子供のためだけに人生をささげようってするし、そして心の内で決めた目標に対し提示される選択肢はひたすら「何もしないこと・じっと待つこと・沈黙を守ること」っていうね。

いったい何十年前のドラマですかって言いたくなるけど、一方で、現代のファンタジーなろう小説が溢れるなかに、これは混ざってた方がいいかなって気もするんですよね。