「グリザイアの果実」(フロントウイング)ネタバレ全開モード

全キャラシナリオ通してプレイした感想としては、ステルスマーケティングって、こういうのを言うんだろうなーと。
前評判がよくて、出る前からアニメ化企画が進行してて、どこぞの出来レースくさい業界アワードで年間1位とってて、と並べていくと、そんな今さらステマなんて言わなくても判りきってることだろうと言われるだろうが、そういうことじゃなく、プレイしてる触感がステマ
まず、この手のエロゲとしては、細部に金と手間がかかってるのが凄くよくわかる。
OPはCG加工してグリグリ回転させる系じゃなく、いわゆるセルアニメの時間がけっこう長かったり。作中の細かい擬似アニメーション処理、街灯の移動で車両移動してる風味を出すとか、そゆセルアニメで定番化した手のかからないぐらいの画面効果を多めに採用してたり。人物の立ち絵の細かい動きとか、一生懸命に設定してあったり。主人公の設定も十代にして超優秀な軍人あがりで特殊工作員の5人や10人はあっさり撃退しちゃうぜとゆー厨二無双で、爆発したりカーチェイスしたり人がバンバン死んで、といった派手な展開が用意されてたり。なによりキャラデザに渡辺明夫連れてきたり、彩色がガッツりダウナー系に気合入れてたり。つーか化物語?ガハラさん?いや俺ホイホイ引っかかっちゃうよ?みたいなキャラデザだったり。
なんつーか、いろいろと企画レベルでプチ豪華で、売らんかなという気合は凄く伝わってくる。

のだが、まぁ、シナリオは、順当に、つまんないのである。それもブッチギリにつまらないんじゃなく、イマドキのエロゲのセオリーに忠実に無難に作ってて、結果としてイマドキのエロゲーらしい方向性でもって、イマドキの精髄のごとく、つまんないのである。すなわち「つまらないんだけど、イマドキのユーザーが批判する言葉を持ち合わせてないから上手く否定できず、個人的感想としてつまらないとしか言いようがなく、エロゲレビューサイトで定番化してる、個別要素の加点減点方式で判定してくと、なんとなく、そこそこの点数はとれてしまい、誉めてる声をあえて否定できないまま、つまんないなあ、という気分だけが宙ぶらりんに残されてしまう」という、つまらなさなのである。
こういう代物は、とにかく宣伝してナンボだし、ステルスマーケティングてーのと親和性が高いだろうなあ、と、そのように感じたのだった。

なんで、イマドキのこの手のエロゲがつまらないのかというと、受け手をグイグイと引っ張っていく力がない、てのが一番大きい。
なんで引っ張れないかというと、まず、昔のRPGのように細かいミニゲームとレベルアップの連鎖でプレイヤーの意欲を継続的に刺激してくような手法が使えない。なんせ選択肢は極限まで少なめになっている。にもかかわらず、物語で引っ張ることが禁止されている。ヒロインごとの個別シナリオに分岐させるために、冒頭では、物語の大目標を提示することが出来ない。そこは、この個別ヒロインシナリオ分岐形式恋愛アドベンチャーノベルのパイオニアであったKanonのように個別シナリオごとの設定が相互矛盾するぐらい割り切って話を展開すれば解決するのだが、その解決手段は良識に反すると封印されてしまっている。さらに「ヒロインの個別シナリオに突入してから他のヒロインが退場して出てこないのは嫌だ」という声に配慮し続けた歴史を重ねてきた結果、ヒロインたち同士で共同体や仲間関係を構築することがセオリーとなって、そのための描写を入れなければならないため、いわゆる「共通シナリオ」というパートが必須のように扱われ、その分だけ「ヒロイン個別シナリオ」に突入する前の段階のシナリオが長くなっている。しかも、このヒロイン共通シナリオでは、ヒロインの個別シナリオに物語を連結させられないために、しばしば「日常」が採用される。シナリオ後半にクライマックスを持っていこうと思ったら、前半では余計なことは何もできない。下手に前半で男性主人公やヒロインの抱える設定を消化してしまったら、途中でその物語の連続性をぶった切らないといけないので、えらく消化不良になってしまうか、前半で話が終わってしまう。ならば何もしないほうがいいということで、ヒロイン個別シナリオに行くまで、何の事件も起きない日常生活がそれなりの長さで描かれる。
しかも、これらの事情が「ヒロイン同士の仲良しなのが人気」「最近は日常描写が流行なんですよ」というふうに言い訳が用意されて正当化されるので、物語が必要とかどーとか言ったところで、じゃあ何をどうすれば改善できるのかを指摘できないまま、なんとなく維持されていく。実を言えば、例えば「つよきす」だったら前半戦勝負で後半ヒロイン攻略はオマケぐらいのバランスであるとか、指摘のやり方はいろいろあるのだが、時流のサブカル評論に流されて何も手をつけられないで来てしまったイマドキを見事に結実してしまったのが、無難に仕上げられた本作「グリザイアの果実」なのだった。

というわけで本編である。とりあえず、シナリオライター4人中の3人ぐらい、男性主人公の厨二病バリバリの最強軍人設定をもてあましてるようで、行動がひたすら頭悪い。また、派手な展開を作ろうとして、結果、登場人物のどいつもこいつもえらく間抜けな行動をとる場合が多い。成人向けのはずなのに小学生向け展開に見える。たぶんヒロインの萌えキャラな言動を書けるかどうかを優先条件にしてライターを決めたんじゃないかと思う。
ということで5人のヒロイン中、4人のシナリオは、男性主人公の最強設定が殆ど全く生かされずに終わる。ではヒロイン自身の物語が存分に語られるのかというと、これが中途半端である。軍人とかリアル要素を持ち込んでるせいもあってか、展開に飛躍が足りず、そのくせ派手にしようとしてバランスが悪い。たとえばガハラさんモドキの由美子シナリオは登場人物全員が魅力を損ねることこの上ない頭の悪さである。つーか、ひたぎさんの真似してカッターナイフ持たせてるのを中途半端に物語で説明しようとして大失敗である。ひたぎさんに謝れ。他にも、メイドはなんつーか本当に頭が悪いし、ツインテールはせっかくの声優さんの面白ボイスが個別シナリオに入ったらダウナーモードの別人格やらせやがって台無しだし、乳シナリオはヒロイン共同体の母親役をやらされる位置づけのキャラ配置と、凄惨な過去でマトモな人生を送れなくなりましたという個別シナリオ展開との整合性がうまくとれてないし、金返せ。いや本当に、ヒロイン共同体の中での関係性を優先してキャラを作って、そのキャラ設定を解体することで個別シナリオを展開しようとしてしまったために、とにかく頭悪いのである。カッター持たせてればいいと思ってんじゃねえぞ。ひたぎさんに謝れ。

それでも、まっとうだったシナリオが一本だけあったのが救いといえば救いで、入巣蒔菜シナリオを一番最後にプレイしたおかげで酷評にならずに済む。蒔菜シナリオは実質的には蒔菜シナリオというよりは男性主人公・風見雄二自身の物語のよーになってる。というか雄二と蒔菜の出来損ない人生な二人が寄り添って生きていけるようになりましたシナリオとゆーことで、や、なんで他のシナリオでこれやらないんだろう? とフシギなぐらい真っ当である。てゆか、厨二設定なところは設定と割り切ってしまいさえすれば、登場人物がみんな厨二設定なりに頭悪くないのが奇跡的だ。
んで、なんで蒔菜シナリオが成功したのかというと、これ、5人ヒロイン共同体の中で、蒔菜が最も幼い、守られるべき「子ども役」という役付けで作られたためだろうと、他4人のシナリオと比較して、思うのである。雄二の厨二設定はヒロインを物理的危機から救って大活躍しつつ、その見返りというわけではないが互恵的にヒロインから精神的救済を得るような設定なわけで。
この場合は個別シナリオの作り方としてヒロインの心理を解体してくような作り方(これ自体は伝統的なエロゲ作法)を選択してしまったのが失敗の元で、それやると男性主人公は空気と化す。だのに雄二という厨二主人公を押し出そうとするから間が抜ける。ところが、蒔菜シナリオに限っては、蒔菜の過去トラウマは解消されてない。エピローグで思いっきり病んだままですよ宣言されるぐらいに、蒔菜シナリオは雄二シナリオのまま終わる。なんでか。雄二と蒔菜の関係が、共通シナリオと個別シナリオの間で基本的に変わってないからである。共通シナリオの延長上だから、蒔菜は別段に精神病理を治療する必要はない。だって、共通シナリオでは、病んでようと楽しく毎日を過ごしてるんだもの、その延長で何の問題もないでしょう? そして共通シナリオの延長であっても雄二が蒔菜に関わっていけるのは、蒔菜が5人ヒロイン共同体の中でも「守られるべき存在」として最初から位置づけられていたためである。

結果論だが、本作は「本編:入巣蒔菜篇=風見雄二篇」と、その他の脱線エロシーン4本、みたいな構成になっている。そう思ってプレイすれば、とりあえずまあ、辛抱強い人ならば、まるきり損するわけでもない、と思う。ひたぎさんを期待した僕にとってはだいぶ辛かったが。