月とペンギンまで

 みんな殺して大団円。東京物語を思い出した(実写映画のやつ。原節子インベル)が、インベルと春香はまるで揺るぎなく周囲の右往左往を意に介さない。地球が救われるのはついでであってインベルにとって地球崩壊も人類滅亡もどうでもいいと全員に了解されたところで、前進する意志・存在する理由などという人の生との結びつきによって成立するような劇や物語の要素は消え去る。つまり実質的に人類が滅亡して終わりというどこぞの発動編ファーストインパクトや人類補完セカンドインパクトを踏襲しましたオチのためにいちいち無闇なエヴァネタを突っ込んだ。人類は進化しなくとも俺たちにはアイドルがいるという開き直りは人類が宇宙へ進出するためにリンミンメイをドサ回りさせたマクロスと対極の回答。もしくは天海春香がアイドルになるまでの話。

 総じてインベルへの愛情が過多なつくり。アイドル出撃シークエンスはトライダーG7ぽく一般庶民の常識レベルではロボ出撃が「戦うこと」と結びついてない。パトレイバーでもレイバー出動は荒事で犯罪者と戦うのを連想させるので、アイドル=巨大ロボであるために導入された「巨大ロボが戦わないことを前提にした世界観」は貴重。作中でもインベルがベタに戦うシーンは映像上かなり回避され、作画枚数の都合もあるだろうがガチンコに正面から人を殺すような行為をインベルにやらせない。舞-HiMEでも舞は嫌ボーン以外で自分で手を下すのを嫌がるが、インベルの場合はそれを周囲のシチュとコンテ割りで実現させる。一方でネタになった斧美少女による大量虐殺も含めやたら血が流れ大量に人が死ぬ。戦うことを話の中心である巨大ロボが請け負わなかった分だけ周囲が血を流したとはいえて、そんな傲慢さでのみ成り立つアイドルをよく表しえている。春香は愛を語るが彼女の言葉がそのまま視聴者の胸をうつわけではない。アイドルの中が空っぽであると知った千早の慟哭こそ真実と誰もが察しつつ、まるで勘違いした傲慢さをふりかざす春香のその言葉に己を託す。春香の言葉に疑いを持つのはやよいのみ。

「うん、私の彼氏」
「へえ、彼氏…」「彼氏?彼氏って…?」

 最後にただ一言だけ春香に伝えたいこと。インベルは選ぶ。好き。大好き。我儘でも判ってくれなくても傲慢でも勘違いされていても。誰よりも貴方が。貴方だけが。空っぽの心で。だいすき