教師について

祈先生はつよきすPC版ではマップ画面に登場しない。彼女のシナリオは別のヒロインのシナリオから選択肢で入ることになる。祈先生について言えば、マップ画面でデフォルメされたキャラクターアイコンとして並ぶ同時性で成立する学園の内部の住人ではない。もっと言えば、同じ時間に存在していない。
祈先生のシナリオは他人とは異なる時間が強調される。主人公と彼女の付き合うサイクルは、他人から言わせるとペースが遅すぎるという。しかしそれは二人にとって適切な時の流れ方として描写される。つよきすでは全体に主人公が勉強や身体鍛錬に時間を割く描写が挿入され、休日に朝から晩まで寝ているのが当たり前で勉強ともスポーツとも無縁の葉鍵に代表されるような学園物ノベルエロゲーの典型的な主人公像とは受ける印象が大きく異なるのだが、祈先生のシナリオにおいてのみ、主人公は数年前の葉鍵系エロゲーの主人公のように怠惰さが強調されることになる。おそらく、そのような形でしか、祈先生と主人公は同じ時間を生きることが出来ない。
かつて小世界として完結していた学園は現在では殆ど成立しなくなっている。つよきすも常にヒロインたちが学園の外側に出ることを前提にシナリオが展開していく。エキセントリックな学園長もエキセントリックな校風も派手なイベントも強力な学生自治も、ほんのいっとき期間限定の世界を維持するための道具立てではあるのだが、逆に言えばそのようなインパクト重視の、受け手が慣れてしまえば次第に機能を失っていくしかない道具立てをそれと理解しながら用いることでしか結界は維持できない。
僕がおそらく読み違えたのは、祈先生が他のヒロインたちの居場所である学園で同じ時間を生きる存在ではないことと思われる。
彼女は現在の学園の内部では生きられない。学園の周縁であるエキセントリックな教師という、現実世界から隔離された学園という過去のイメージから勘定するなら、いわば周縁の周縁でのみ、彼女の時間は成り立つ。
教師は取り残され阻害される。