ぱれっと『もしも明日が晴れならば』

http://www.clearrave.co.jp/product/mosiraba/down.html
ここ何日かOPそのままのデモムービーばっか見てました。(上のリンク先でDLできます)
彩乃(委員長)って、OPだと珠美、彩乃、千早の順番で、カット的には均等な割り振りで登場するんです。珠美と千早はHシーンありの、いわゆる攻略可能ヒロインになりますから、彩乃が攻略可能じゃないのは、それなりに意味があった、という話になります。

分類

この種の複数のHできるヒロインとそのヒロインを主人公とした複数のシナリオを単一の男性キャラクターを視点にして文章を追いかけていって文中の選択肢ごとに枝分かれしていく文章を読み進める「完全分岐型」のノベルエロゲーは、幾つかの差異によってさらに細かく分類できます。
まず、分岐していった先のEDの差異。EDテーマが流れスタッフロールが読めるEDと、シナリオを読み終えるとすぐにゲーム開始画面に戻ってしまうEDが同居しているタイプが一般的です。
この他に、どんな結末を迎えても同一のEDとなるタイプ*1、読み進めたシナリオの重要性*2などによってEDテーマの曲などが変化するタイプ*3、全てのシナリオを読み終えると新しいシナリオ展開が始まってしまうタイプ*4などが知られています。
もしも明日が晴れならば』は一番最初の一般的なタイプに分類されますが、EDテーマの流れない、いわゆる「バッドエンド」的な扱いのEDは、彩乃とのそれだけになります。それ以外は全てEDテーマ付きの各ヒロインのシナリオです。中途半端に終わるバッドエンドはありません。
次に、OPのあるなし、OPの内容、というのも分類対象となります。この種のノベルエロゲーのOPは『Kanon』前後から、複数ヒロインを(しばしば名前を出して)順番に紹介していくタイプが主流です。夜のお店で女の子の写真が名前付きで並んでいるのと同じような感覚でしょうか。これによってある程度まで要領を把握したプレイヤーは、このゲームではどのヒロインが攻略対象であるかを確認できます。OPがないか、OPの内容が上記のようなタイプでない場合、プレイヤーはそうした情報を得られません。これと同様に、パッケージや説明書も分類する際の考慮対象となります。場合によってはメーカーHPや広報まで考えなくてはならないかもしれませんが、私の場合はそこまでは考えないようにしています。
最後に、アルバムや回想のコーナーです。Hなゲームでは、イベントの美麗なCGを後から見返すためのコーナーと、Hシーンや感動のEDを再度見直すコーナーがシステムとして付いているのが大半です。それらのコーナーを見ると、CG回収率というのが%表示で示されたりして、プレイヤーの攻略への欲望を駆り立てます。
これらを総合していくと、プレイヤーに対して「全てのヒロインを攻略せよ」「全てのシナリオを読破せよ」といったゲーム本編の外側からの環境的な要請がどの程度あるかが見て取れます。こうした外部からの要請が強いゲームにおいては、ゲーム本編の内容に関わりなく、プレイヤーは「全てのシナリオをプレイしなければ」という気分にさせられやすくなっている、と言えます。そのような環境的な要請によってプレイヤーは複数のヒロインのHシーンを見たり、全てのシナリオを読破しようと試みたりするようになり、その結果、「こちらのシナリオでは僕が女の子を間一髪で救ってあげたから女の子は命を永らえて幸せになったけれども、もしも僕が今目の前にいる女の子を相手にしているせいで、あの子が死んでしまうようなことになったらどうしよう」といった、他のメディアやゲームではちょっと考えられないような悩みに直面する率が、多少高くなります。そうした外部の要請が最小限であれば、「再度プレイしているのはプレイヤーが自分で決めたことだろ」と言って終わりにしてしまえますが、その手のゲームを何度もプレイしてお約束について了解済みのプレイヤーであればともかく、あまり馴染んでいない人には居心地が悪いものです。
もしも明日が晴れならば』のOPが、この種のノベルエロゲーの「ご指名制度」的なお約束を裏切って、Hシーンのない彩乃を珠美と千早の間に挟み込むようにして配置したのは、そうした事情への対策と思われます。

歴史

今回の文章の冒頭の引用は、作中の男性主人公とヒロインとの会話です。
野乃崎明穂は幽霊となって恋人であった男性主人公の前に帰ってきて、そこから二人を中心にしたちょっとしたドタバタ劇が始まります。そうした中の、一幕。
『センチメンタルグラフィティ』で女の子を振るイベントが組み込まれていたことを、どの程度の人が覚えているのか知りませんが、男性主人公が自分自身の言葉でヒロインの少女を振る話というのは、その前もその後も、あまりありません。
三角関係の修羅場を扱って話題となった『君が望む永遠』でも、男の子は黙って、ただ「どちらかの女の子を選ぶ」といった形で、まあ良く言えばポジティブに何がしかを獲得する形で、もう一方のヒロインを「結果的に」袖にします。修羅場の展開にしても、基本的には二人のヒロインが鉢合わせして、彼女たちだけが火花を散らし、男性主人公とヒロインが衝突することは、基本的にはありません。
理由は簡単で、そういうことをすると僕らフェミニストエロゲープレイヤーから嫌がられるからです。自分が操作している男性主人公が女の子を傷つける言葉を吐くなんて許せない。そこで選択肢を選ばせたなら、僕らはまず女の子を傷つけない言葉を選びます。たかがゲームでも、いやたかがゲームだからこそ、そういう目にはあいたくない。その点をひたすらしつこく追求した更科修一郎という人は、その評論を雑誌に発表した当時、ネットのエロゲーオタの人たちから凄まじい勢いで批判されました。更科批判のページは今でも残ってると思います。面白いことに、どちらかというと『Kanon』とかの「萌えゲー」「泣きゲー」に批判的な「エロゲー右派」なる人たちのほうが過剰反応してました。
さておき、そうした状況に対するアンチテーゼとして当時最も過激だったのが、同人からブレイクした『月姫』でした。作ってる人たちは自分たちのやっていることがイマイチ理解できてなかったっぽいのですが、システムの要請するところに従ってモノを作っていってしまった結果、後の「MELTY BLOOD」に繋がるような、男性主人公とヒロインが正面衝突して殺しあうという要素を盛り込んでしまったのです。ニトロプラスの『ファントム』と違い、『月姫』の主人公の遠野志貴は殺るとなったら躊躇せず本能の赴くままにヒロインを切り刻み、あるいは妹と本気で命を賭けた兄妹喧嘩を繰り広げました。それはもう、スカッとするぐらいに。

すなわち、画面内のヒロインの立ち絵はPCと正対するモンスターグラフィックと同じなのです!
「あゆあゆの こうげき!」
「あゆあゆは ボクのことわすれてください を となえた!」
「ゆういちは 65535ポイントの ダメージを うけた!」
「ゆういちは たおれた」
http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/20050415

主人公とヒロインとの生き残りをかけた死闘は、ノベルエロゲーというメディアの隠された本質を衝いていました。*5月姫』のこの発見は、同じく同人出身でブレイクした『ひぐらしのなく頃に』に忠実に受け継がれ、エロシーンを排除することによって「主人公とヒロインの殺し合い」に純化したシナリオは大成功を収めます。普段ならこうした展開に眉をひそめるフェミニストなプレイヤーも、「推理のため」「ミステリだし殺人は起きるよ」「ホラー」として素直に受け入れてくれました。完璧な擬装です。ブラボー。「ひぐらし」が『月姫』の正統な後継者であるのは、何よりも上記の理由によります。
さて一方、同人ではない商業の看板を掲げたほうのノベルエロゲーでは、ときどきは凄い勢いで女の子を袖にする主人公もいましたが*6、基本的には、女の子を一人だけ選ばなければならないという状況に悩む主人公*7はいても、女の子を振る行為は遠ざけられてきました。*8もしも明日が晴れならば』のスタッフによる過去の作品においても、ヒロインの選択が文中の選択肢によるものではなく、マップ画面におけるヒロインアイコンの選択という、男性主人公の主体からやや離れた形での選択だったため、そうした行為に対するプレイヤーへの指摘によりプレイヤーをトレードオフ状態に陥らせることは行われてきても、男性主人公がヒロインを手ひどく振るということはなかったのです。
物語とは弔いである、と、誰かが言いました。弔いとは何でしょう。生きている人間が、死んでしまった人間の、その死を儀式的に確認すること、社会的な意味で相手を死の側に委ねること。それならば、物語の主人公の存在を、言葉の上で殺すことが物語の機能でしょう。
だから別に、『もしも明日が晴れならば』の男性主人公、一樹が口にした言葉は、何か極端なことでも何でもなく、言葉の上で殺してあげただけの、ただそれだけのことです。多分、僕の知るエロゲーの中で、一番、カッコいい主人公。

感想

購入、プレイ開始から、全シナリオクリアまで、少し時間がかかりました。
正直、ひとつのシナリオをクリアしてしまうとそれで満足してしまって、次のシナリオを改めてやろうという気が起きなかった。
それで、最後まで読み終えて、改めてOPを見てしまって、ああ、なんか、最初から最後まで、ずーっと明穂に救われっぱなしだったなーと。
全部のシナリオを読んでしまうスケベ根性丸出しの自分に、ずっとつきあってくれて。
ありがと。

*1:『雫』など

*2:製作スタッフ判断による「トゥルーエンド」「ハッピーエンド」「バッドエンド」などの差異

*3:君が望む永遠』など

*4:『AIR』など

*5:『ONE』の消えてしまう主人公、『Kanon』の一度は死ぬか臨死体験する攻略相手のヒロインらを見よ

*6:水月』で雪さんを追いかけて花梨を置き去りにする主人公など

*7:君が望む永遠』など

*8:ノベルでは『ONE』のえいえんの中の少女に対してぐらいしか思い浮かばない