「ひぐらしのなく頃に」をどう捉えていくのか。材料集め

雲を掴むような話はこれぐらいにして、以下は参考になりそうな作品。

ここではセガサターン版。3つのシナリオがあり、1本目の男性主人公シナリオでは様々な謎を残したまま終ってしまう。1本目をクリアしてからプレイできる2本目と3本目の女性主人公視点のシナリオではじめて謎が解明される。
男性視点の「ひぐらしのなく頃に」と女性視点の「ひぐらしのなく頃に解」の組み合わせはここにそのまま当てはまる。「 DESIRE 」はコマンドAVGであり、このAVG形式がゲームであることを保証していたため、「ひぐらしのなく頃に」において製作者サイドが主張するようなゲーム性をめぐる問題意識と直接は関わらない。しかしながら、両者の違いはゲーム性の概念やそれを巡る問いかけがよりラディカルになった現在の状況を考える上で参考になる。

同人ソフトから成り上がったビジュアルノベルの鬼子。構成の緩さによりゲーム性の呪縛から完全に解放されている。まとまりが希薄で、作品としての体裁が申し訳程度にしか維持しえていないが、だからこそ作品を超えたムーブメントとなった。本作は謎解きやヒロイン攻略といったゲーム性の基盤が極めて弱く、どちらかといえば作者の用意する文章や展開を提供することに重心が偏っていた。*1つまりはゲームとして見た場合ひどく雑で同人臭いのだけれども、そのゲームとしての同人臭さこそが、「ゲーム性」を重要視しすぎてストイックな態度を取りすぎた…つまり別の意味でマイナー志向、同人臭かった18禁ビジュアルノベルへのカウンターとなった。

月姫」との組み合わせとして。こちらは商業作品としての体裁のために「月姫」の持つ様々な荒削りの魅力を削り取り、力技とテーマ性に突出した。
ここで失われたのは「バッドエンドの魅力」「同人臭さの魅力」総じて「ユルさ」とでも言うべき部分であり、「 Fate 」の正逆としてバッドエンドしかなくかつ同人・オタクコミュニティを明確にターゲットとした「ひぐらし」がある、と言える。

部活の参加者にとってゲームの定義とは「部活ルールが適用出来るか」という一点のみであり、元がゲームであろうが無かろうが、本来のルールが存在しようがしまいが問題にはならないのだ。*2

同人作品。面白いことに、「ひぐらしのなく頃に」と正反対のコンセプトで製作されている。「ひぐらし」が「ゲームと言って良いのかわからないゲームをプレイする部活」を提示したのに対し、こちらでは硬式野球という日本人に最も馴染みの深いゲームを、ゲーム内ゲームとして提示する。主人公は事故で野球を続けられなくなった甲子園球児で、女子硬式野球部のマネージャーとしてヒロインたちの青春を見守る。つまり、プレイヤーのみならず主人公すらもゲームの外側に追放されている。
選択肢は野球の試合の展開を巡るもので、それがゲームの外側にいる者の視点により選ばれる。ここにおける選択肢はゲーム性という概念から完全に切り離されている。最も近いのは心理占いだろう。「あなたは今、空を飛んでいます。何が見えますか? 次の3つから答えてください」というやつだ。
選択肢がありながらプレイヤーをゲームの外側に完全追放した本作は、おそらく「ひぐらし」と並び現時点で最も前衛的なビジュアルノベル作品と言える。

*1:具体的には、選択肢を選ぶ際の逡巡が重視されないなどが挙げられるだろう。逡巡を重視したのが18禁AVG「君が望む永遠」で、こちらのメーカーの某「シェンムー」を思い起こさせる「マブラヴ」の迷走はゲーム性追求を巡る袋小路の一つを示しているようでやはり興味深い。

*2:http://ab.txt-nifty.com/ab/2005/01/post_1.html