「真剣で私に恋しなさい!」(PC)

CGだいたい埋まり。
エンタメのはずなのに、全般にカタルシスの少ない代物です。
大きな理由としては、主人公の造形が中途半端なことと、主人公の「軍師」ぶりが物語において今ひとつ冴えないことが挙げられます。
 
企画のタカヒロは、強い女の子の話ばかり延々と書いてるエロゲライターで、基本的には、男を様々な意味で凌いでいる女の子をベッドでヒイヒイいわせる快楽を描写の軸にしつつ、しかしあくまで女の子は男に服従せずアイデンティティはキッチリ維持していてキャラ萌え対象として成立している(よくある女教師陵辱物などのようにヒロインの人格が壊れちゃうと、つまりキャラクターの容器としても壊れちゃいますから、萌えられません。萌えキャラは「変化しないこと」が重要です)のが売りです。

なので、相方となる男は女性より弱いほうがいい。昔は姉と弟だったり、そこそこヘタレっ子だったりすることで、そんな弱っちぃ僕ちんがベッドの上ではあの女を征服するぜー、という話を作っていて、わりとすんなり行ってました。
が、同じ路線を繰り返してネタ枯渇したせいか、あるいは男の子が「物語主人公」として活躍しないとダメだという言論圧力のせいか(なお、本作では男性主人公が一部シナリオを除き成長変化していない点に注意。物語主人公の役割はほぼ果たしていません)。いつの間にか男の子たちは十分に強かったり活躍したりするようになり、それを受けた女の子たちは、「普通に強い男よりも強い存在であり続ける」ために「武士娘」というファンタジーな設定で強さを補強されるようになりました。タカヒロ前作がどの程度ファンタジーだったかは未プレイなので知りませんが、これは、「姉と弟の力関係」といった卑近で馴染みやすい女尊男卑関係からすると遠い。
また「武士娘」の「武士」ですが、根拠となるものが薄い。強さを説明する小道具単語でしかないのに舞台設定にわざわざ「武士の町・川神」と言わなきゃならないぐらい単語オンリーでは説得力がない。日本のローカルな文化圏として「武士の町」を設定するの自体が無理がありますし、作者も百も承知で判ってるからニンジャスレイヤー大好きっぽい勘違い日本知識の外人が訪れ日本を武士道の国と呼ぶところから話を立ち上げていきます。
さてシナリオの快楽の根っこである男女の人間関係が「武士」というファンタジーに依存して成り立ってることは、作品世界が徹頭徹尾、ご都合ファンタジーでしかありえないことを意味します。人間関係をシリアスに掘り下げようがない。お気楽コメディが基本の世界設定なのです。にも関わらず、あるいはそれゆえに、本作は無闇とシリアスな展開をシナリオに持ち込もうとします。剣道やフェンシングの試合で戦うぐらいでは武士娘じゃないのです、困ったことに。男と女が同一価値観上で戦っていない(例えば同じ弓道の世界で男女対戦するといったことがない)せいもあり、武士娘たちがどれだけ強くても「男より強い女」は物語上で示されない。女性がその強さを示すには抜き身の得物を携えてファンタジー世界でのリアルなガチバトルを行なうしかない。
 
こうして世界はファンタジー度を増していき男女関係はファンタジー世界に寄り添うことで深まっていく。しかしファンタジー度が高まるほど、あるパラメーターは価値を下げていきます。「知力」です。素手の人間がコロニーレーザーを撃つような世界で、現実に即した推理能力・論理展開力が一体どれだけ役に立つのか。
主人公が自称他称する「軍師」についてですが、本作は、しばしば喧嘩や競争といった「戦い」を行なうものの、そこで披露される主人公の「策」が地味すぎる。主な仕事は人材リクルートと適所補充で、「策をめぐらせる」と言うときは「強いコマを用意する」とほぼ同義です。なんかあるたび「策を用意しておいた」と言いつつズシャアつって黄金聖闘士が出張ってくるだけでは、正直「ドラえもん」の「あやうしライオン仮面」を読んで反省し出直してきて欲しいと思ってしまうのは仕方ないことでしょう。ましてアニメや漫画と違い、バトルになっても画面栄えしないから話を引っ張れないし。リアル軍師の仕事はリクルート活動が大事かもしれませんが、そんなリアルを物語に持ち込まれるのはいただけません。けれども、それぐらいしか、やることがないのです。
 
よかったといえばキャラクター造形がきちんと立っていることですが、それゆえに、それぞれのキャラクターは自己完結してしまっていて、動的ではありません。まゆっちが松風と別れる必要は見出せませんし、京においてすら人間関係はサバサバとして見えます。みな文章で解説されてるほど切羽詰ってるように見えないのですね。実際、どのエピソードも、ちょっとした波風程度のように描かれて終わってるし。その結果、物語展開としては物足りないわけで、どこで読み始めても読み終わっても特に変化はなく、「先に読み進めたい」という気には当然ながらなりません。

全般に、ウェルメイドで作ろうとして、窮屈になった印象があります。CLANNADやFate、とらハ(見る人によってはリトバスひぐらし等々も)などの過去の有名作品と重なって見える箇所が幾多もありましたが、それはノベルエロゲのフォーマットに収めようとして苦慮している窮屈さを繰り返してるようで、正直、過去作のあまり継承して欲しくない面をそのまま引き継いだように見受けました。あるいはAngelBeats!の煮詰まり度合いを暗示先取りしているかのような。つまるところ、どっかで見たような作りであって、最後まで新味は皆無でした。

そんななか、個別シナリオとしては、クリスが一番良かったのではないでしょうか。もともとクリスの来訪からプロローグが書き起こされるので流れも悪くないし、娘を奪うため父親と戦うのも話として収まりがよかった。勘違い武士道(騎士道)を歩んでるのがクリスのみというのも含めて、実際のメインヒロインは彼女なのでしょう。メディアミックス展開や二次創作がどうなってるかは知りませんが、クリスを主人公にして全体を再構成すると、かなり見通しがよくなって面白くなりそうな予感があります。