映画 劇場版けいおん!

 今日、3回目を見に行った。

けいおん!」で唯たちが通う高校のモデルとなった豊郷小学校旧校舎が、自治体が解体を強行しようとして問題になった場所であるのは、知られているし、僕も知っていた。

豊郷小学校旧校舎…解体の危機から町おこしの主役に
http://takuya870625.blog43.fc2.com/blog-entry-1058.html

ただ、そんなことは意識して見ていたわけじゃないし、今回も気分転換したかっただけだったのだが、あの校舎の階段のウサギとカメを見てしまうと、嫌でも今やってることを思い出さざるをえない。

僕は今、かつて県立高校があった土地の扱いを巡って神奈川県と争ってまでも公園設立を目指す住民運動を、手伝ってしまっている。

高校は生徒減少で廃校になった。廃校になったあと、文化活動や住民サービスで使い始めた矢先に土地を開発業者に転売する話が決まった。地元住民に反対されながら校舎は取り壊された。先週には競争入札にかけられたが、神奈川県の予定落札価格に届かず競売は成立しなかった。仕方ないので、再度の競争入札をやろうとしてる。大筋としては、それだけの話だ。

それだけの話なのだが、嫌になるぐらい紆余曲折がある。

ひとつめは、その高校の施設は生徒数が減少したら福祉施設なりに使うという話が、高校設立時からあったこと。
http://www.youtube.com/watch?v=YXk_jzDsJaE&feature=related
ふたつめは、高校のあった場所はもともと日本鋼管の産業廃棄物を投棄してたような、建物を改めて建てようと掘り返したりすると土壌汚染が見つかるような土地で、それを盛り土した上に校舎を建てていたこと。それをまともに調査して売りさばいた日には土壌汚染の処理で売却益なんぞ出ない、そうな。
みっつめは、小泉改革ではじまった不動産ファンド(TVのCMでいやというほど流れてたアレ)という投資の手法によって、常識的に見て利用価値のない土地でもファンド化して売りさばけるようになったこと。ショッピングモールの建物だけ作っておけばテナント収入が入りますからといって、そのテナント収入の予想でもって不動産を紙切れの束化したファンドを売りさばくことができるようになったのだという。実際にはテナント収入が伸び悩むことが予想されても、現地をろくに見ない海外の投資家や高齢者あたりに適当な収益予測を示して高値で売り飛ばせば開発業者は儲かる。

で。高校の跡地に目をつけた土地転がしの業者が、不動産ファンドの手法を使えばボロもうけだと考えてしまい、神奈川県や川崎市の偉い人たちを巻き込んで、その高校の土地を売り飛ばすことにした。
施設を住民サービスに提供するという約束があるが、そこは、土壌汚染があるから校舎は使えない、解体して売り飛ばす、という話にした。この説明がなんかヲイヲイ、だった。基準値オーバーしてるけど人体に影響はない、とかなんとか。
http://www.youtube.com/watch?v=zSItIncnF0E&feature=related
そのうち、よっつめが出てきた。校舎にはアスベストが使われていた。アスベストは建材として塗り込まれてるうちは問題ないが、解体工事でぶっ壊した際に飛び散ると大問題になるので、多額の費用をかけて飛散しないよう解体しないといけない。が、神奈川県はとりあわなかった。
この頃がヒートアップのピークだったのだが、神奈川県が反対運動してる人たちを片っ端から告訴したり(まるで関係ない人間まで何故か訴えられたりしたので、これまた盛り上がったhttp://www.youtube.com/watch?v=7rtWUfU3erY&feature=related)いろいろイベントやったあげく、強制執行命令が出たふりをして(裁判所の許可っぽいものをねつ造して)、警官やらガードマンやらを大勢繰り出して、けが人まで出したあげく、校舎解体は強行された。

ところが話は終わらなかった。校舎が解体されたが、その後、開発はされなかった。リーマンショックになっちゃったのである。不動産ファンドを盛り上げてた海外資本はどこぞに消え失せ、そもそも、真っ当に売ろうとしたら二束三文にしかならない土地(土壌汚染&アスベストつきで、立地もはなはだ悪い上に、土地転がしのために「住宅やマンションや老人ホームや病院や託児所は建てちゃダメ、商業開発だけやっていい」という開発計画にしてしまったため、使い途がまるでない)に成り下がった高校跡地に、転がす側が見切りをつけて手を引いてしまったのである。残されたのは校舎解体や土壌調査に億単位の金を使い、開発計画まででっちあげてしまって、もはや引くに引けなくなってしまった神奈川県と川崎市で、なにがなんでも当初の計画通りに売らなければならないと、競争入札に出すことにした。売らなきゃいけないから、土壌汚染もアスベストも全て適当に誤魔化してしらを切り通すことにした。

そこに、「校舎がないなら公園にすればいいじゃない」と言って、しょうこりもなく住民運動が出てくる。つまり、僕らだ。入札に参加して、参加するからには現地を見させろと言って、神奈川県がないと言ってたアスベストを探し出し、きちんと調べるまで売るなと言った。
で。
実を言えば、僕はそれまで全く関わっていなかったのだが、いきなり交渉役をやってる。
http://togetter.com/li/241562

正直、どうでもいいと思っている。どうせ投げた人生だから。仕事だろうと住民運動だろうと好きにしろと思っている。僕が巻き込まれてること自体はどうでもいい。

けども、「けいおん!」で、教室で卒業ライブを敢行する唯たちを見てしまって、階段の手すりを見て、あの音楽室を見てしまって。振り返ってしまったときに、あの教室が解体されていたかもしれない教室なのかもしれないなどと余計な思いつきをしてしまったために、落ち着かなくなった。

映画が終わって外に出ると雪が降っていた。ロンドンから帰るときの雪。旅の終わりなのに映画はまだ終わらない雪が、映画と映画の外を繋げてしまってる。雪の中を歩いて余計なことを考える。

http://www.youtube.com/watch?v=om5PIwAvvb0&feature=mfu_in_order&list=UL
喋ってるのは僕だが、僕は、この延々と続く茶番劇に、ろくすっぽの思い入れもなく、いかにも判った風に口をきく。相手の神奈川県の課長も似たようなものだ。仕事だからやってるだけ。ついでに言えば喋っている場所は「アスベストはないから調べる必要はない」と何年も言い張ってきた神奈川県庁財産管理課の、その会議室だが、課長さんの背後のロッカーの上には「アスベスト」と大書された段ボール箱が5個も6個も積み上がっている。隠す気もなく、ただ言葉を言いつのり続けるだけ。お互いにどうでもいいと思っている同士がギャアギャアとわめく。当事者でなどありはしない。では本当の当事者なんているのかといえば、そんなのはない。あえて言えば土地転がしで金を儲けたい奴が当事者なんだろうが、それとてもはや、だ。福祉施設に入所できずに待機している高齢者、アスベストをばらまかれた周辺住民、神奈川県の予算をただ延々と垂れ流されてる県民は当事者と言えるかもしれない。が、その当事者の多くは種々の事情で黙っている。跡地のすぐ風下にある小学校の児童たちは最悪の被害者と言えるかもしれないが、教師も公務員なら親も土建業が多い地区ときては、何をかいわんや。誰もが都合で動く。住民運動だろうと金儲けだろうと同じだ。ただ特定の主体を想定し、その主体において合理的であるかどうか、効率的であるかどうかで物事の善し悪しが判断されるだけだ。そんなことは判った上の話。軽音部の部室。唯たちの教室。階段の手すり。

雪の中を歩く。教室での卒業ライブはどうしても涙を禁じ得ない。