続き4

こうして犬と人間の線引きを徹底的に曖昧にしていく最後のダメ押しが「薬」です。人型犬には性欲を抑制する薬が与えられるのですが、シナリオ進行の過程で主人公の祐一は彼らの世話をするための性欲亢進の薬を飲むことになります。それまで祐一は犬たちの世話をするためとして自分自身の性欲発散はしてきませんでした。犬と人間の間の線引きが主人公の目線では明確に行われていたのですが、薬によって増進させた性欲を処理しなければならない、と微妙に目的と手段の入れ替わりが感じとれなくもない流れのうちに、そろそろ発情期を終えていそうな時期になってもご主人様にご奉仕するシルヴィ(里沙のペット)やみかん(祐一のペット)が描かれることになります。物語当初の祐一は人型犬を人間の性欲処理の道具にすることに距離を置いていたのですが、みかんの主人に奉仕したいという望みを受け入れてやることも飼い主の役目と了解したのでしょう。

さて、このようにして発情期を軸に物語は展開していきますが、人間と人型動物の共存する社会の描写と同時に、両者間の線引きを消し去っていくことで、祐一やみかん達は一つのコミュニケーション共同体(性行為もコミュニケーションの一部となる)を作り上げていきます。それは共同体の外部との対立でもあることが示される。ひとつはシルヴィの元の飼い主の豪田夫人への、主人公祐一による法の枠外の私的制裁の暗示。夫人は法に照らしてみれば悪いことはしていないわけですが、シルヴィらペットへの「非人道的な振る舞い」への報いのような形で、祐一に処断されることになります。また、一つのシナリオでは物理的な危険をもたらした相手に対して否応なく実力行使での排除がなされます。