石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』ファミ通文庫

ネタばれ。
 
 
ここんところの流れから切り口変えてきた新作・・・にも関わらず結果として「いつもの感じ」になってるのが、時代に愛されてる、、、のかなあ?
読んで、あまりの時事性の高さに眩暈がしましたよ。
耳狩ネルリ1作目で提示された「作家性」を発見するとすると、とりあえず「一過性の流行言葉や時事ネタを絶妙に掬い取ってる」「小説ならではの言葉あそび」「ラノベならではのジャンルのお約束を逆手にとってジャンルを解体してみせる主題構築力」となるか。
「流行や時事ネタ」としてはネルリやカマタリさんではケータイ小説のテキストを掬い取るセンスやサッカー代表ネタ等々。
「言葉遊び」としてはやはり古文やフォント遊びの、小ネタのようでいてリズム感絶妙のテキスト感覚。
前作までは、特にそっち方面を掘り下げてたと思うんですが。
今回は、「ジャンルのお約束を逆手に取る」のほうですね。
ネルリ1作目は、ファンタジーで、なおかつ学園もの、という枠組みを利用して、全寮制の学校の中の体制的な側面をクローズアップしてみせることで、ラノベの学園ものジャンルの閉塞を見事に打破してたわけですが、今回はやはり学園ものを取り上げながら「夜間部」という切り口を使うことで、ジャンルの枠をさらりと回避してみせてくれます。
夜間部=吸血鬼のための時間とすることで現実の学校の夜間部のヤンキーというイメージをサックリとクリア。
こういう、いかにも古典的伝統的でありながらなかなかお目にかかれないファンタジーならではの軽々としたテキストの飛躍は作者の得意とするところ。
しかし。それにしても、その夜間部に通うヒロインという「向こう側の存在」に対峙する主人公の設定が「両親の経営するコンビニ」の「冷蔵庫の住人」である、という設定は、なんですか一体ここんとこの騒動を予知でもしてたんですか、と言いたくなりますよ俺としては。
もちろんそんなことはなく、食品小売業の冷蔵庫という空間についての洞察がしっかりとなされてるからこそ、結果的にタイムリーな「予知」になったんでしょうけども。
テキストの情緒感もさることながら、そういう、プロットレベルでの、現代性をきちんと見抜いてモチーフを切り取るセンスってのが抜群であるからこそ、現実がそれを追いかけてきてる、純粋にそういうことなんだと思います。

まあ、余計な情報は置いといて、そういう構成レベルのガッチリ感と、それを土台にした文章の情緒感つうか作者のいつも隠すことなくストレートにぶつけてくるダイレクトなテキストを、しっとりじっくり、季節とともに味わえばいいんじゃないでしょうか。
あと10分で映画が始まっちゃうから以上。