続き

 階層都市というより階段都市とでも言うべきか。川崎は元々JRよりは京浜急行近辺のほうが活気があった(今でもその名残はある)。宇都宮や松山ほど極端ではないが、JRの駅は工場のために人を輸送する駅であって、「町」の中心にはついぞなりえなかった。それを塗り絵をクレヨンで塗りつぶすように工場があった場所を再開発することでJRを軸にした形に矯正し、ラゾーナというモールが出来た。この東芝跡地のモールはイメージとしては殆ど旧い土地の上から強引に新しい構造物を被せ覆った中途半端な空中楼閣だ。そしてJRに隣接した西の楼閣の反対側、東の口には駅前地下街へと繋がる巨大な下り階段が4階建て分の落差で真っ直ぐ繋がっている(ちなみに地下街を下りて直進し突き当たるのは「ぼくの地球を守って」で待ち合わせ場所に使われた広場だったりする)。街の繁華街の中心軸をただ直進するだけなのに異常なまでに上下動を要求する究極のアンチバリアフリーエスカレーターで立ち止まって歩かなかったというだけで殺人事件が発生するほどの)の階段構造がJRを軸とした川崎という構造であり、そうして下った先の地下街は扇状に広がる京浜工業地帯へ人を運搬するバスターミナルによって成立する。

 逆に見れば。川崎の、多摩川鶴見川に挟まれた扇状の京浜工業地帯最中心地域から伸びた人の動線ベクトルは、地下から中央階段によって一つの束となり、なぜか改札に突き当たらずにプレハブ楼閣のショッピングモールへと流れ込む。そして、その上昇ベクトルの軸の突き当たりにあるのが、バンナム直営ゲーセン(人目につかない形で萌え専門ショップ〜ほぼ完全に思春期以上男子向けで女性向け99%カット〜を中央に内包した)だ。

 もちろん、現実の人の動線は、そんなふうには動かない。工業地帯から発せられるベクトルは貨車やトラックにより複雑に分散し、工場を出入りする人の多くにおいては川崎という街への帰属意識などないに等しい。ショッピングモールに吸い込まれる人たちの多くはJRの改札や裏手の駐車場から入る。何より工場の多くはマンションやショッピングセンターへと変わってしまった。そして年老いた川崎本来の住民は自転車で縦横無尽に走り回り地下になど降りはしない。だから、上記のそれは既に存在しない虚構のベクトルだ。

 ただ。虚構のベクトルの果て、電脳の虚構の殿堂がある。どんな形であれ確かに。