[ゲーム]『シンフォニック=レイン』

タイトルにも採用されている、雨について。

クリス。そちらは今も、雨が降っていますか?

物語の冒頭は上の記述から始まる。
舞台となるピオーヴァの街は雨が一年を通してけして止むことなく降り続ける雨の街であり、ピオーヴァの人々は雨に慣れきってしまっているために、外出するにも傘を持ち歩くことがない。
そのような街の風景を見つめるゲーム画面は雨の描写にそれなりの注意を払っており、屋外においては雨の音とグラフィックが全体を覆う。雨音はしばしば激しく、デフォルト設定の状態で屋外で会話していると、キャラクターの音声やBGMがかき消されてしまうほどである。その日の雨量・雨勢については画面左下でパラメーターが表示*1される。つまり、雨はシナリオ内で表記されるのと重ねて、別途にパラメーターとしても扱われている。この他にも、演奏曲の歌詞や楽曲においても当然ながら雨がモチーフ、素材として使用されており、作品内で使用される構成要素は雨によってつながっている。
では、その「雨」とは何か、と問いかけたなら、以下にリンクするのが最も適切と思われる。

観鈴は向こうからやってきたり往人のほうから近づいてゆくのではなく,その場にいきなり登場するという場合がほとんどです.少女が突然現れる,というのはこの種の浮世絵ゲームの本質で,空間が三次元の奥行きではなく背景と立ち絵の重ね合わせの有無によって版画されているため,テキストもそれに引きずられているのでしょうか.あるいは往人が大変クールであるため,観鈴が近づいてきても振り返りすらしないのでしょうか.いろいろ想像できますが,21日,22日にはその解説らしきものが見つかります.
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観鈴との出会いからこのかた穏やかであると思われた堤防の風景が,実はそうでなかったことがここで気付かされます.堤防から校門に至るまで,もちろん武田商店のあたりにも強い風が吹いていて,だから往人は観鈴のことをすぐ側に来るまで気付くことができなくて,またふたりはぴったりと寄り添っていないと声が届かないのです.
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強い風が吹いているからこそふたりは空に思いを馳せることが出来て,そこは風を切る音だけが支配するようなイメージに満たされているのだけれど,それと同時にふたりが言葉を交わすには寄り添わなくてはならなくて,そのときふたりの間には夏影のような静かな音楽が流れています.この二つの音は同時にそこにあって,ただそのときどちらが注目されるかによって針が傾いています.
http://homepage1.nifty.com/fluorit/narrativelog2.html#14

少し離れた場所からの声もよく聞こえないほどの風と、キャラクターの音声を掻き消すほどの雨音の効果音はおそらく同質であり、そこから、傘を差すことも忘れてしまった街で主人公の前に傘を差し出すファルシータの行動は、堤防の上で風をはらんで立つ少女のそれと全く同質であると言える。
そして風は堤防で吹き、雨は街全体を包む。風は空の少女に繋がっている。雨は彼方にいる少女のところには降らず、少女は「クリス、そちらは今も、雨が降っていますか?」とクリスに問い掛ける。
クリスの住む街だけが雨がやむことなく降り続けているのは、そのような理由による。

*1:サンプル画面より、テキストウィンドウの左下のブルーのバーがそれ。別画面と比較すると、バーが変化していることがわかる