トラペジウム

見とくかー、ということで見たが。

こじんまりとしたウェルメイドで、きちんとまとめあげたプロデューサーや監督以下スタッフの力量は賞賛されるべきだし仕事が評価されて見合った報酬や次の仕事に繋がるといいな、と思った。

 

それ以上は特になし、て感じの、ほんとに何もない話。

 

少なくともネット評にあるようなモノはなんもない。

作りがわりと露骨で、

  • 最近のトレンドに乗って音楽業界と組み合わさった音楽もの・アイドルもの
  • 劇場版オリジナル映画定番の青春もの

というフォーマットありきなのが、すごくわかりやすい。で、青春時代の思い出としての短期間の芸能活動というエピソードを短時間で手早くまとめてくにあたりキャラクター造形を詰めてってこうなった、という感じ。

主人公の造形がああだこうだという感想については「いや、すごい丁寧にわかりやすく作ってるから読解力に欠ける視聴者にわかりやすいとこだけ拾われて変な奴扱いになってるけど、作劇の都合でこうなるんだな感を差っ引くとちょっとボンクラなほぼ普通の子だよ」としかならない。

 

以下ネタバレだが。ネタバレしても別にいいだろ、おかしな評がまかり通るよりはと思うので、積極的にネタバレしてく。

話の中盤でバラされるが、主人公の行動の流れとしては、

  1. アイドルにあこがれる
  2. オーディションに応募しまくるが落選しまくり
  3. 普通じゃダメだ、もう奇策をとるしかない!と作戦を立てる
  4. アイドルゲームに出てきそうなキャッチーな趣味行動・外見・声質のメンバーを探し、さらに東西南北で揃えてグループとかキャッチーなんじゃね?と設定を先に考えて当てはまりそうな子を探す
  5. 偶然会った美人の子が知り合いで誘いやすそう、ボランティア活動やってる、これだ、ということで4人目選定
  6. 思いのほかに作戦が上手くいってしまい、本当にアイドルデビューできてしまう
  7. 設定ありきで集めたメンバーなので芸能活動への適性とか憧れとかは関係なくて早々に破綻してしまうが、アイドルデビューまでの流れが上手く行き過ぎてたのもありフォローに気が回らず
  8. 煮詰まった状況でエグい台詞を吐いてしまい、そこをネット民に拾われて炎上(この「炎上」は作中で炎上したわけではなく、映画評として変なほうに話題になったという意味)

という感じ。

で、「アイドルゲームに出てきそうな独特の女の子」の部分についていえば、おそらく「アイドルゲーありがちシチュエーションへの批判的メタ言及」を狙ったんだと思う。そういう「既存のベタなアイドル物とはちょっと違うことをやる」の自体は凄くありふれた手法で面白くも何ともないんだけど(安全なとこで批判してみせてるだけだからね)、この映画スタッフの凄いのは、そういう野暮な部分を、主人公が意識してそういう極端に特徴ある子を集めてるという前半の状況としてものすごく丁寧に細かく描いてるとこで。

こんな独特なシチュエーションを青春もの描写として成り立たせてるのに対し、まず拍手喝采すべきだと思う。

なのだが、その「メタなシチュエーションを丁寧にメタじゃなくベタな状況に馴致させていく」過程で主人公の行動をしっかり描いてみたら、ネット世論的になんか変な奴という扱いになった、という。

いやそこ? 追い詰められて変なことするって意味合いでいえばフィクションの主人公全般にそういうもんだし、憧れが焦りになって煮詰まってる10代少女として見たらそこまで大仰に言うもんでもないし、最近はほんと大人しい子をあげつらうイジメみたいなレビューが流行るな? となるんだけども。

むしろ、主人公の行動の独自性の大半て「ゲーム的な学園アイドル物のメタ状況を自分の手で作り上げる」という部分でさ。

それってアイドル物を消費してる視聴者(および作り手)に被らせてるわけで、「主人公って頭おかしい」じゃなく「ああ、主人公は我々視聴者の目線の代弁者として行動してるんだな、わが身を振り返れってことか」という話のはずなんだが。

そういうメタ目線の押し付けに対し、作者いったい何様のつもりだという反発があるならわかるんだけど、視聴者は自分たちが批判対象だとわかってない。わかる気がない。主人公の姿はアイドルとして少女を消費するキモいアイドルオタお前らのことだ、などという話にならず「主人公ヤバイ」という話になる。

そうなってしまう理由もわかるのだが、アニメスタッフが真摯に作品を纏め上げ、視聴に耐えうるものとしてキャラクターや描写をちゃんと作ってウェルメイドに仕上げた結果、作品の舞台裏の露骨さがほとんど目立たなくなってるためで。

ちゃんと仕事したから変な評価になった、というね。これがもう少し、露骨に「これはキモオタお前らのことだ」をやってたら分かりやすかったろうけど(作品としては下品で悪い意味でニタニタしながら視聴する、しょうもないところに安定しただろう)。

さらに。

そのメタなとこ以外は、びっくりするぐらい、何もストーリーがない。メタなシチュを作りました、成功したけど早々に破綻しました。おしまい。

で、その状況を「メタなシチュで変な行動だったけど、青春物語として、あんなことあったな」って振り返って、それで終わり。

すげー、なにも残らねー。ちゃんと仕事したスタッフ名は残るべきだが、スタッフ名以外は何もない、ほんとに。

メタフィクションをしたり顔で語るサブカル系キモオタ向けの素材を残さないという点で言えば、残さない、何もないことすらも賞賛されるべきなのかもしれないのだが。

まさか、かくも歪な評がまかり通ることで名前が残ってしまうとは。