33年目の少年ケニヤ(ネタバレあり)

川崎市市民ミュージアム少年ケニヤを視聴。
子どもの頃、、町内会で2グループに分かれてアニメを見に行ったとき見たのが本作。ちなみにもう一方のグループは風の谷のナウシカ(引率される側に選択の自由はなし)。内容は殆ど覚えてないが恐竜が白骨化してくとこだけ覚えてた。
 
驚いたのが記憶より遥かに実験的というかアーティスティックで、なおかつ原作を知らない子供(原作がヒットしたのが初上映時のさらに30年前)を置いてけぼりにしない配慮に満ちてたこと。まず原作者が実写の姿で登場し、その書斎から引き込まれる形で冒険の舞台へと誘導。とにかくテンポが速く、飽きっぽい子供たちがよそ見しないよう次から次へとイベントが連鎖する。にもかかわらず説明不足ということがない。その情報量を処理するのに駆使されるのがアート的な映像処理で、原作者の書斎から地球儀を経てアフリカケニヤへ飛ぶと絵本ぽさを思わせる絵から入り、場所移動のタイミングでのモノクロの線画処理を挟んで輪郭線を持った一般的なアニメセル画に移行する。映像の変換を駆使して場面転換、時間経過も同時に処理させ、大胆に説明を省略して次から次へとノンストップで話が展開していく。こんな凄いものを子供の時に見てたのか、と驚く暇もないまま無暗にエロ度合いの高い美少女ケートが登場。カメラがとにかくケートを狙い定めてエロアングルで撮りまくってて「あれホントにコレ子供向けか?」と訝しんでいると後半クライマックスは「もう子どもは十分に引き込んだからこのままの勢いで突っ走るぞ」とばかりいかにも当時の映画らしく特殊効果をかけまくった映像を自制のタガの外れるままに物量押しでつっこみ、ポンポン登場してくる古代の恐竜たちにいいように幻惑され振り回されながら映画はエンドロールへ。
 
本当に最初から最後まで映像に引きずり回されたのだが、30年前のフィルムゆえに痛みがかなりあったのが逆に効果的だった。冒頭から音響にノイズが走り、絵本調のイメージを期待したであろう映像はにじんで輪郭のぼやけ具合に拍車がかかってるように思えた。ひっきりなしに変転する映像の転調とフィルムノイズの組み合わせは夢幻の中での恐竜たちのロストワールドとの交錯でドンピシャでクライマックスに達し、眼前に展開する映像が特殊効果によって色が変わっているのかフィルムの痛みによってピンボケして見えるのか、全く区別がつかない。
映画製作時点で既に30年前の児童向けヒット作のリバイバルであったものを更に30年後に視聴した今回のタイミングが絶妙だったのだと思う。さんざ脳がシェイクされまくった状態でエンディングテーマ曲の歌詞が刺さる刺さる。やられた、もうやられた、これは凄いもの見たわ、と満足してエンディングロールを眺めてると最後に
 
「監督 大林宣彦
 
……。
………。
…………。
 
あんたかー!!!!!!
 
あんたかよ!!!!!!
 
そりゃ特殊効果入れまくるわ!
そりゃケートをエロアングルカメラで思う存分に舐めまわすわ!
そりゃヒロイン原田知世の角川アニメだもんな!
 
知らないで見てたのかよ、って?
すみません知りませんでした。知らないで「子どもの頃に見たよなー」ってだけで見てました。特殊効果にしても、アニメーション映画史特集という枠組みだったので「なるほど実験的だな」って受け止め方してました。
でも監督大林って知ってたら、ここまで映像に入らなかったと思う。特殊効果に「お、大林テイスト」ってだけ受け取って分類して終わってたと思う。「監督 大林宣彦」って出たときの「謎はすべて解けた!」て意味不明なカタルシスもなかったと思う。
 
何度も繰り返すけど、今このタイミングで、殆ど前提知識をもたずに視聴できたという本作での映像体験は、そうそうないと思う。上映当時であってもビデオ視聴であってもフィルムノイズは入ってこないし、監督名は嫌でも目に入ったはず。
 いやー、ホントに貴重な体験させていただきました。感謝。