三輪 健太朗「マンガと映画」(NTT出版)

ううむ。
マンガを論じるにあたって、過去になにかと映画と比較され映画との対比や類推によって語られてきた言説史を顧みた上で、映画に寄り掛かるでもなく、映画から過度に距離を置くでもない、同時並行的な進歩・進化を経てきたマンガというメディアの知見を切り開こう、という本。
・・・なんだけど。
ざっと読み終えた感想としては、修論、博論の集大成、といった感じでした。「特に新しい知見はないけど過去の言説をよく拾ってきちんと整理してる丁寧さが光る」みたいな。
丁寧さについてはよく頑張ってると思います。ただし拾ってる言説はあくまでマンガ言説が中心であって、美術史や芸術史、メディア評論、あるいは現代芸術批評のための現代思想、といった領域については、おそらくあまり突っ込んでない(おそらく避けてるか、追いついてない)
なぜ目当たららしい領域を切り開けなかったか、というと、言い方が悪いけど、腰が据わってないんだろーなー。批判や否定を受けるのを引き受けてでも、根源的な足場を切り開こう、みたいなものではなく、あくまで、既存の言説を慎重に検討しながら、良識的な距離感を置こう、ぐらいの本。

悪い本ではない。が、書かれてることについていえば、ここ十数年に新しい知見を切り開いてきた宮本大人や佐々木果、中野晴行等々の本を読んで消化していれば判ってることであって、それを改めて整理しましたと言われても、読者としては物足りない。意地悪な言い方をすれば、マンガ学という象牙の塔が出来かけてて、この本を高く評価する研究者たちの声というのは「俺らそろそろ研究の中にひきこもります」宣言ととれなくもない。
まあ、それは言い過ぎにしても、取り上げてる題材からしても、射程があくまで「過去に大きな影響力があったと思われるマンガ評論」であって、マンガの実作自体には向かってないんだよね。けど、「いったいマンガの実作が、過去のマンガ評論にどの程度まで影響を受けてたの?」と聞いて、本書で言及されてる研究者の著作が実作に影響を与えたなんてーのは、あんましないんじゃないかな。あえていやコミケという現場を指揮してきた米澤嘉博や、編集者や原作者、「ストーリー創作ハウツー本著者」として実績のある大塚英志になるんだろうけど。そういう意味で、実際にマンガを描いてる漫画家と議論して、マンガ論の実力でねじ伏せようという胆力が、欠けてる。批評であれ評論であれ研究であれ、マンガ実作と向き合ったとき、個々の作品に評価を下さないようでは意味がないんだ。ダメだと思ったらダメと言わなきゃいけない。それがない。
だいたい以上。