ウォッチャー、という文化の危機(もしくは「彼」がブログを続けられる理由)

本当は真面目に順序立てて検証してったほうが後々のためにはいい話だと思うんだけど、仕事が普通に忙しいので手短に。
どっから言ったもんか困る話ですが、うちでいつも粘着しているコンビニ店長のアレに、いつもじゃない人たちが反応していて、それを読んでいるうちにね。
まず、元の。

http://lkhjkljkljdkljl.hatenablog.com/entry/2013/08/06/155425

この店長は、基本的には名の知れたネットヲチャーから普段はスルーされてます。
理由は棲み分けできてるから。
ネットヲチャーは主に「ネット内で完結している炎上案件」や「ネット上だけで検証できる懸案」、あと「意識の高い」「リテラシーや教養」のほうに反応します。文章やトークで完結する省エネ案件に手出しする。そのほうが手軽で効果が大きい。ネット外で実地に検証しないといけない案件なんかには、あんまし首を突っ込みません。
なんでかっつうと、「炎上」「ウォッチ」てのは現実と関係ない<インターネットという遊び場>での、お気楽な火遊びだからです。そっから派生してリアルな仕事が生じたりもしますが、彼らの意識の根底としては、現実の社会や経済、政治から切り離された自由な場としてのインターネット、というのが、とりあえず、あります。実際に現実から切り離されてるわけがないと知っていても、建前上はネット社会も現実の延長だと言ってても、それでもなお、多くの人に「まだまだインターネットは自由に遊べる」って気分があって、そういう空気の中で「ウォッチ」や「炎上」てのが成立してる。
もちろん「ウォッチ」も「炎上」も、現実の生活空間で同様のことをやったら、つまりはストーカーだったりご近所の家から出るごみ箱を漁ったり、あるいは玄関ドアにスプレー缶で落書きするようなものですから、犯罪にまでいかなくとも、ずいぶんと公序良俗にそぐわない行為であることは間違いありません。けど「文章」だから、「ネット」だから、「表現の自由w」だから、ヘイトスピーチじゃないよ社会正義だよ、という言い訳を小脇に抱えつつ「ウォッチ」や「炎上」を楽しむことができる。

んでコンビニ店長というキャラクターは「自分が実体験したことだけ」という題目でネタを上げてきます。実際にはそこからかなり逸脱して世の中かくあるべきというお説教がかなり混ざっていますが、そこは「俺はネットの他の人より頭悪いから」「俺はネットの他の人より学歴ないから」とか議論を避けつつネット世論に迎合できそうな口論を述べ、自分が気に食わない意見に対しては「よくわからない」とか「文章がうまい」とか、そういう言い方で相手を貶めます(彼のブクマコメントで「文章がうまい」って書いてるときは「けど内容には反発する」「内容はスルー推奨」って意味です。自分の領分に近いとそういうコメントしたがりますね)
そうやって高学歴と低学歴という壁を自分を守るために利用することで、店長はネットヲチャーの領域と重ならないできました。意識してか無意識かは知りませんが、基本的にクレバーに逃げ回ることで棲み分けができてるのね。

なんですが、今回、わりと珍しくネットヲチャーが反応しました。

目を引いたのは、
http://b.hatena.ne.jp/otsune/20130806#bookmark-156874862
このid:otuneさんは典型的なヲチャーで、相手の話の細部を混ぜっ返すことで評価を稼ぐ人なんですが、店長の文章に噛みついてて、しかもそれがあまり評価を稼げていないで埋没している。
指摘の内容自体は、コンビニ店長がいつもやらかしてることです。「はてなのネット民さんは頭がいい」「俺の生活空間は低学歴や頭悪いやつらや田舎者で出来上がってる空間」っていう話しか、彼はしません。
そも、彼がそういう話題をするのは、彼の現在のアイデンティティが、そこに根差してるからです。つまり、「俺は田舎から上京することで成功した」とか「俺は低学歴の中から這い上がって頭いい人たちの仲間入りした」とか、そういうサクセスストーリーを、本人が自分で信じてるかどうかはともかく、ネット上のキャラとして押し出すことで文章を作っている。
元はエロゲとかを高尚な言葉で語るというアレな人たちの間で「高貴な野蛮人」扱いされることで仲間入りして友達ができた、周囲も彼という「高貴な野蛮人」を持ち上げることで文化の高さを誇示できた、という程度の話だったんですが、コンビニ経営で1000万だか2000万だか年収稼いで、そのへんの話をブログに書いてるうちに、勘違いするようになったんでしょう。今回は彼の周囲の悪趣味ぶりは置いて話を進めますが、だから彼のいう「田舎と都会」話や「DQN話」は、彼のキャラ作り上のアイデンティティそのものと密接にくっついていて、切り離せません。なので名だたるヲチャーであるid:otuneさんが彼について今さらそんな話題で突っかかるなんてのは、話題遅れも甚だしいんですね。実際ツッコミは殆どスルーされています。コンビニ店長の周囲において、そんなツッコミは今更どうでもいい。
ところが、話はそこで終わらなかった。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20130807-00027094/

この人はコンビニ店長とはすれ違わないだろうな、という人が言及した。
次に、

http://artifact-jp.com/2013/08/08/educational-background/

アーティファクトの人なんか店長の芸風なんざよく知ってるはずなのに、やっぱり反応した。こっちは推察するにid:otuneさんが無視されたことへのフォローじゃねえかな、と思うんですけど、いかにも良識的に店長を諌めるポーズをとった。

んで。言及してはみても、彼らも非常に歯切れが悪い。それでね、どうやら、このローソンの冷蔵庫で悪戯した事件からの一連の流れってのは、どうも彼らにとって話しにくいけど無視できない話題なのかなと推測したわけです。

次に、元2ちゃんねるの偉い人が店長と並べて論じてる脱なんとかの人を見てみることに。

http://dennou-kurage.hatenablog.com/entry/2013/08/06/205343

んで。上記のは「別に今になってはじまったというわけではない」てのが論点なんだけど、ちょっと違和感があって。
今回の、何件あるのか知らないけど、それらを「ありふれたもの」として扱うことで、互いに関係してるわけではない、と言いたげでね。
でも、実際のところ、ネット上に上げられてるニュースかなんかで、先に起きた事件をみて触発されたんだと思うんだよね。
連続殺人事件か不連続な偶発の積み重ねか、みたいな話でいえば、ミニストップのは9割がたローソンの件に触発されただろうと。なぜ、それを無視するんだろうと。

そこで、ようやく気づいたんだけど、彼らは(彼らが依拠するネット世論は)、「バカをするやつが沢山いること」に驚愕したんじゃなくて、「ネットの炎上案件を真似して自分も炎上するバカがいること」にショックを受けたんだと。思い出してみると、ミニストップの件のときは「なんで炎上して自分の身にも処分とか降りかかるかもしれないってのが想像できないんだ」という反応だった。

で。
ここから、コンビニ店長やヲチャーは「ネットリテラシーのないひと」「バカ」「DQN」「自分の周囲だけで自己完結してる人たち」、なんでもいいけど、「彼ら」を発見しはじめたわけですが。
でも、彼らにとって本当の問題は、「炎上案件をネットで見たらヲチしたり叩いたり分析したりして、囃し立てるのがネット作法」という自分たちの行動パターンと違うことをする奴が同じネット上にいること、だったんじゃないか。
つまり「うわこいつ酷えバカ、炎上させたれ」つってネット上で拡散させる行為は「酷いバカ」を社会正義の名のもとに懲らしめるもので期待してる反応は「叩き」だったはずなのに、その意図を理解せずに、拡散した情報をもとに「うわ面白えことやってんじゃん。真似したれ」って反応したやつがいることで、「炎上拡散=社会正義の達成」というお題目がアッサリと崩れ去った、そっちこそが、彼らの気にしている本題じゃないか。

もちろん、ネット民であれヲチャーであれ、彼らの誰も「叩いて炎上させること=社会正義の達成」なんてことを本気で思ってるわけじゃないでしょう。けど、それは彼らがターゲットをヲチしておちょくり、場合によっては炎上させて叩く、という、ちょっと引いた地点から見れば、かなり悪趣味な行為をやらかす上で、そうした一連の流れを面白おかしく楽しむ上で、罪悪感を軽くする意味があった。
つまりヲチャーにとっての「俺たち、何も悪いことしてないよな」「ネットで面白おかしく遊んでるだけだもんな」という文化圏を成立させるための「ネットリテラシー」、その外側にいる人たちの存在がとっくの昔に「炎上拡散」の流れの中に紛れ込んでいて、彼らの「ヲチ」という遊びを破壊しようとしている、それを目の当たりにして、当惑してるんじゃないか。

そういう中に登場したコンビニ店長は、彼らにとって、便利であると同時に厄介でもある。コンビニ店長はネット民というセレブに対し「俺はセレブの外から来た奴です」というポーズをとって人気を高めてきた。彼は「ネット民の知らない現実」の代弁者として振る舞ってきた。そんな彼が、今回の件について、いつものノリで説得力をもたせつつ言及しちゃった。そこに提示された「向こう側」という線引きに彼らは同意せざるをえない。なぜなら同意しないとネットヲチ&炎上という彼らの遊び場がなくなるから。けれど「向こう側」を低学歴DQN、というふうに実体ある形で提示されてしまうと、彼らが「遊び場のこちら側」でなければならない以上、彼らもまた実社会の枠組みの中に自分たちを当てはめることになる。だけどそれは、「実社会からフリーな遊び場としてのネット空間」に席を持つことへの否定になる。ヲチャーたちは「ネットという遊び場」を維持するために、コンビニ店長の魅力的な階級分け案に対し、嫌でも反応するしかなかったんじゃないか。なんせ店長の記事で「あいつらに学習させるのは不可能」といってるのに「教育でなんとかしよう」という歯切れの悪い小並感。2ちゃんねる運営の片割れだった男ともあろうものが。

さて、野暮なツッコミはここまでにしておいて、対策提案。
拡散炎上ヲチ、という遊びは、そろそろ「行儀の悪いもの」としてネットリテラシー教育でやめていくべきでしょう。
ヲチャーの皆さんは廃業する時期に近づいていると思います。もう「自由なネット空間」なんてのも、昔と比較して、ずいぶんと縮小してきました。この先、ヲチを続けてもネット遊び場の範囲は縮小する一方で先はなく、ヲチャーの皆さんの人としての品格が下がるだけです。
また、id:otuneさんのツッコミがコンビニ店長に対し何の抑止力にもならなかったように、だいぶポピュリストの体現になりつつあるコンビニ店長に、ヲチャーのみなさんは、次第に敵わなくなっていくでしょう。今は店長は「あたまのいいひと」に尻尾をふるポーズをとりますから、表立ってヲチャーの領域を荒らすことはないでしょうが、彼の領域はヲチャーの遊び場が削られていくのと同じ速度で広がっていきますから、どっかの段階でどうにもならなくなります。
 
私見ですが、ヲチャーだった人には、二通りの道があります。ひとつは社会正義を行ってるんだ的な看板を投げ捨て、小説の感想を書くなりなんなりの実用ブログに収まること。大概の場合、ヲチャーは普通にいい年した社会人ですから、こっちが妥当でしょうね。
 
で、もうひとつ、どうしても社会正義の看板を外したくない場合。
俺みたいに「粘着」になりましょう。ネットで気に食わないやつがいたら住所を探して実際に押しかけましょう。ネット民の反応など気にせず、それどころか実生活の知人にも諫言されつつもやめることかなわず、自分の思うところをもとに、特定個人の言動をひたすらチェックし否定しましょう。実際にやってみると辛いけどね。
あんまし短くならなかったが、以上。