召喚魔法と異界の越境と その8

 まだまだFF10ネタバレ。

 この回想期間の一本道と飛空艇入手の接続点は、完全な断層である。

『ゲームシナリオのドラマ技法』ではFF10の最大の盛り上がりを「父と子の対決」に見出す。確かに最後の戦闘は見かけ上は主人公ティーダの父ジェクトとの対決だが、この「父」は戦闘力はさておきシナリオ描写においてあまりに弱々しい。ジェクトは好んでラスボスを担っているわけではなく、真のラスボスに身体を乗っ取られているだけで、最後の戦闘は父として倒すというよりは父の敵討ちの様相が強い。
 また、ティーダの父親役には実の父ジェクト以外にもアーロンがおり、こちらは10年間ティーダの成長を見守り、冒険の旅においてはティーダの行動をサポート、誘導する役割を負う。そのキャラクター描写も「父親役」と言って差し支えない。ティーダとジェクトの対決も、アーロンが誘導することで成立する。総じて、父親は制度として立ちはだかるというよりは、精神的な先達としてその意志の継承を肯定されている。

 問題は「母」だ。作中、1000年にわたる善と悪の出来レースを演出し、悲劇を生んできた元凶として描写されるのは、ヒロインの名と同じ名を持つ(ヒロインが彼女の名にちなんで名付けられた)ユウナレスカである。

 しかも、回想シーンの基本ルートである伝統で定められた悪を倒す召喚士とその護衛の長い試練の旅は、「召喚士と護衛の絆を深める」ために行われる。絆を深めた後に引き裂く「悲劇的展開」まで含めて出来レースというわけだ。それを最初に恋人と自分で実践してみせ後の世代に倣うよう要求し続けるユウナレスカを倒して出来レースの連鎖を断ち切るのは、回想シーンの終了の直後、飛空挺を手に入れる直前のことである。

 つまり回想シーンが終わって「オレたちの物語」が開始した直後に「悲劇の物語の無限連鎖」を演出してきた実質のラスボスである「母」を倒し(倒せるあたりがRPGである)、過去の「物語」に束縛されない広がる世界を自由に飛び回る「オレたちの物語」が始まるのがFF10の「シナリオ」である。

「オレたちの物語」において「主人公」ティーダの父と子の対決は、もはや中心ではない。つまり、FF伝統の実質一本道の怒涛の展開を、回想というギミックによって切断、実質的に否定したのである。

続く。