遠藤浅蜊『魔法少女育成計画limited』(前後編)(宝島社KL!文庫)

・シリーズ1作目の感想 http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/20120626
・シリーズ2作目の感想 http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/20121111 http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/20121213
ちなみに感想を書いてませんが他に小エピソード集が1冊、今回あわせると6冊出ていてシリーズとしては結構な冊数になっていた、ひっそり黙々と続いてるシリーズ新作。
今まで、やたら死人が出る話のくせに地味だ地味だと感想を述べてましたが、今回はかなり派手です。登場人物が大勢死ぬのは変わらないのですが、死に方が今までにも増して物理的にも心理的にも陰惨だったり、魔法少女と関係ない巻き込まれ一般人死者の描写が多めだったり、リミテッドというタイトルに反してリミッター外れてる感があります。
おそらく無印1作目やrestartでは魔法少女たちの活躍する作品世界の背景、世界設定がまだ固まってなかったのだろうと思います。それがシリーズ継続してるうちに「魔法の国」などの設定が深まり、また今後のシリーズ継続の見通しもほぼ確定してきたこともあって、登場人物たちが伸び伸びと活躍できるようになったのかなと。
また、テーマ的にも見せ方的にも1作目のそれを改めて問い直しているようで、腰が据わってる感があります。
たとえば1作目について山田風太郎忍法帖シリーズだというレビューがありましたが、今回はかなりそっち寄りのテイストが強くなっています。「魔法の国」がガチガチの官僚機構的な縦割り組織で内部抗争から事件が発展するという粗筋は、江戸時代の幕藩体制下で密かに戦う忍法帖や武芸帳のそれを彷彿とさせる。忍者って基本的に「表向きは平和だけど裏では対抗勢力同士が血で血を洗う暗闘してる」という舞台設定じゃないと活躍できないといいますか、表で戦争状態だと武士がガチンコで集団衝突しますから忍者がカッコよく個人能力を披露する出番がない。この「官僚的で融通の利かない魔法の国」フォーマットが見えてきたことで魔法少女の活躍する場の確保に安定感が増してる。
そしてタイトル通りの「魔法少女を育成する」という基本構成。1作目はずばりそのまま選抜試験でしたし「restart」は「再教育」でした。今回もまた「一人前の」「正しい」「あるべき」「理想の」魔法少女像をめぐって各人の思惑が交錯し、それぞれが魔法少女を「育成」すべく行動していく。
魔法少女の魔法能力は「魔法の国」から与えられたものですから、そこには常に「与えるもの」と「与えられるもの」の上下関係がある。それは作中で魔法の妖精と魔法少女、弟子と師匠、上司と部下、リーダーとチームメンバー、様々なモチーフを通じて示され、二者の間では、上位が下位を自分の考えに沿ったものに「育成」しようとし、下位がそれに対し自発的に「成長」しようとする、という摩擦が常に生じるわけです。ここまでフォーマットが確立してるから物語構造の安定感は揺るぎないものがありまして、これなら話はいくらでも作れるだろうと思われる。
小手先に終わらない骨太さで先が非常に楽しみな娯楽作シリーズになりつつありますが、唯一残念なのは本作の所属する「このライトノベルがすごい!文庫」レーベルが出版社の力関係によるものか、書店のラノベ売り場で平台の良い位置が確保されることが殆どなく、ややもすると見えない位置に追いやられることです。イラスト可愛いのに! 超かわいいのに! シビアな環境ではありますが書店さんが推してくれることを祈ります。