戦火のナージャ

 実際に見に行くまでは「明日のナージャ」と絡めたネタで感想を書くんだろーなーとか思ってました(原題は「エクソダス」です)。

 すみません。ガチ。

 以下は、タルコフスキーもろくに見てないロシア映画素人の感想です。が、しかし、嘘偽りない本音です。

 本作は、ネタ的には「ロシアの古典派巨匠監督がスピルバーグ作『プライベート・ライアン』に出会ったら」です。

 出会ったら。モンティパイソン風シュールとバタリアン風脳天気を兼ね備えつつロシア古典映画風味もちっとも消えてないとゆー、文字通りの怪作になってました。カンヌグランプリとアカデミー外国語賞のW受賞作品の正式な続編にしてロシア映画史上最大の制作費をかけた戦争映画とゆー凄い肩書きですから、そういう名作路線なんだろなーとか思ってたら、もー甘い甘い。パンフ解説では「ロシアの国民性を理解するのに最適」とか「監督は保守派との批判も受ける」とか映画読解のための情報を必死でかき集めてますが、個々のパーツを理解するのと総体でかましてくる迫力とでは、わけが違いすぎます。なまじっかハリウッドのイマドキを取り入れた映像表現なのにまぎれもなくソ連ロシア映画スターリンジョークの背景となった粛正吹き荒れる1940年代ソ連のシュールな現実を笑いの題材として取りあげてくれてるはずなのに、それを笑うフォーマットの背景にある思想がまた何かひどく偏ってるがゆえに、どこから笑えばいいのか判らないという恐怖。そして、その偏り具合の根本にあるのが、映画製作技術というロジックの大系に殆ど狂信的なまでに盲従しているであろうとゆー「技術屋の狂気」。

 開始5分から必死で笑いをこらえてましたが、10年後にはとてもじゃないが笑えなくなってるかもしれない。3000万ともいわれる東部戦線の死者を向こうに回しての不謹慎な笑いを求めたい向きには全力でお勧めします。情け容赦なくホンモノです。映画でカルチャーショックを受けたいならこれをまず見ろと。

 いやイロモノ扱いで書きすぎましたが、間違いなく凄え面白いです。サービス精神満載でハリウッド映画のように見所シーンの連続ですから飽きる人も出ないでしょうし(それがまた異様な迫力を生み出すんですけど)。キリスト生誕史劇を見に行ったらエルカンターレの説教が待っていたみたいな部分はなくはないですが、おおむねロシア人の見た東部戦線モノだと思い切ってしまえばどうにかなるはずです。

 ぜひ劇場へ。