若木民喜『神のみぞ知るセカイ』

 この手の話では毎度のことだが「こんな都合のいい女の子は現実のギャルゲーには存在しない」というのがミソ。

 大事なことだから、もう一回。

「現実には存在しない」じゃなくて「現実のギャルゲーには存在しない」ね。この漫画に描かれているのはあくまで「ギャルゲーはこうであって欲しい」的な願望で描かれた、現実にはもう存在しないスイートクールなギャルゲーなので。

 出てくる娘さんたちの姿は、ネットのオタ論で妄想的に語られる<ノイズのない萌え美少女>を忠実に引き写してるとも言える。「食パンくわえて「ちこくちこく」言いながら登校途中の街角で転校生とゴチンコ」ていう都市伝説的描写はパロディの中でしか存在しないとか、そーゆー話だと思っとけばいい。パロディを通しメタ視点を弄んでみせることで免罪符を獲得し<ノイズのない萌え美少女>を享受するとゆー言い方で大体あってる。その言い分け用に「俺はリアリティやノイズを受け入れてるぜ」つって「リアル」が乱用される構図もいつものことなので、そーゆー批評論評向けには、この漫画は実にいい。「ノイズのない女の子」がリアルに存在してて、そいつを攻略しなきゃいけないとゆー話で、その「リアルな女の子」は可愛い萌え美少女で。ああもちろん俺が今書いてるこの文も全部「萌えるための言いわけ」ですよ。一緒に泥沼に嵌りましょうね。

 とりあえず、俺の知るどんなギャルゲーより都合のいい設定なので、ちょっとした「ノイズ」を持ち込めばいろいろ面白くなる。例えば「男の恋敵」。「女の子が恋をすればいい」のなら自分で攻略する必要はない。

>君、あのね。あゆが奇跡を起こして栞を救ったとしたら、今度は、あゆを救うのは誰か他の人なの。
http://flurry.hp.infoseek.co.jp/200308.html#02

 などと能天気な思考が成立するのは「ギャルゲーのお約束」がガチガチに固められてるからである。こっちが攻略80%ぐらいのときに他の奴が真剣にアタックかけてきたらどーする。上手く手を引いて他の誰かに攻略を引き継いでもらうなんて、そんな簡単にいくのか。そいつが攻略失敗したらアウトだが、そのリスクを負って手を引けるのか。ギリギリまで競り合えば新しい心の傷だって増えるかもしれんぜ等々。

 まぁ、あんまりリアルだノイズだ三次元だと言わないほうがいいと思う。それで何が出てくるわけでもなし。