「さくらむすび」から抜粋 その4

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――ねえ、覚えている?
出会った時のこと。
桜を見上げる貴方。
お化けでも見るような目をした貴方。

何かに、怯えていた貴方…

薄紅を、深紅と言い切る貴方。
桜の木々の向こうに、どこか別の世界を覗いていた貴方。

放っておいたら、その先に消えてしまいそうな貴方。

どうしてかしら、声をかけたのは。

どうしてかしら、笑いかけたのは。

私と同じ、のっぺらぼうの貴方に。

どうして?――
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――好きだから。



「ぁ…ぇぇ?」

言葉に詰まった。

「ん?」

単なる、読み間違えだったのか。
それとも無意識だったのか。

――好きだから。

そんな台詞は、ない。





少女は、なぜ同じのっぺらぼうの男子に声をかけたのか、笑いかけたのか。
なぜ、そうやって、どこかに消えてしまいそうな彼を、繋ぎ止めたのか。