[ゲーム]『シンフォニック=レイン』

Bad に分類される3つを埋めて、エンディングのカウントはコンプリート。CGも多分コンプリート。肝心の演奏パートは未だにノーマルで3万点しかいかない。伴奏の同じキーを一定リズムで押すだけのパートで点数稼げないあたり、なんつーか根本的なリズム感の問題という気がしてならない。
以下ネタバレ。
シナリオの分岐方法は3つ。シナリオを読むことをゲームの主軸として見た場合、大まかに言って3種の「選択・分岐」のタイミングがある。まず演奏パートの成功/失敗の判定。次に、主人公クリスが目の前の相手に返答する形での2択の選択肢、最後にシナリオ前半の放課後の行動決定で、これは学園マップでチェックされたポイントを選択する形式。ただし、ノベルものギャルゲーの類の常としてシナリオを読み進めていくこと自体はゲームの中心とは言いがたく、対策として例えばゲームの欠如をそのまま抱え込んだシナリオってのが製作されたりする。*1この場合のゲームの欠如は大雑把に能動的たりうる人格や行動基準や社会規範の欠如のことで、短絡的に言ってしまえばモラトリアムと重ねてしまって差し支えない。18禁ノベルゲーの多くでゲームの空白を埋めるのはエロ、それも「愛ある(心を伴った)セックス」で、こっちは順調に普通のポルノ市場に馴染んでく。
 
話をシンフォニック=レインに戻すと、こちらで中心となるのは演奏パートであり、演奏以外の選択肢などでは「意思決定」的な、ゲームであることを感じさせる要素は排除されている。まず、それぞれのキャラクターへの分岐はマップ画面で選択するのだが、最初の1週目で必ず全てのキャラクターと出会うように設定されている上に各キャラクターは居場所を全く変更しない*2ため、試行錯誤は発生しない。また、マップ画面も他作品における、いかにも攻略マップくさい俯瞰の視点(主人公から遊離した視点)を避けるように、水彩画風の柔かいタッチで緩い角度から眺めた全景図を採用し、のみならず移動場所選択のシーンに突入する前、最初の登校シーンでシナリオによる場面解説にあわせてマップ画面を「学園全景のイラスト」として見せることで、水彩画マップを主人公クリスのイメージであるかに思わせ、AVG画面からマップ画面に移行する際に主人公クリスの意識の連続性が保たれるように配慮している。なぜそこまでしてマップ画面でのキャラクター選択に拘るかを考えてみると、AVG画面でテキスト表示された選択肢を選ぶよりも顔アイコンのないマップ画面のポイントを選択するほうが、プレイヤーにとって心理的な抵抗が少ないことが挙げられる。ゲーム開始時点で主人公には恋人がいるため、プレイヤーにヒロインを3人ずらりと並べて選択させる方式は抵抗が大きい。抵抗が大きいということは、それを一度克服してしまうと免疫がついてしまうということでもある。「もう彼女に決めたんだから」と思ってしまえば、他のヒロインに対して鈍感に振舞うことに躊躇しなくなる。それでもシナリオがしつこく元の彼女や別のヒロインを出現させて「どっちにするの?」と問い掛けてくれば、そして主人公が合わせて逡巡すれば、プレイヤーとの意識のギャップから「うざい」となる。『君が望む永遠』でやらかしたのはそういう類の失敗であった。かといって、本作ではプレイヤーの選択が全くのブラインドで行われるわけでもない。旧校舎、校舎端の練習室といった各ポイントは、各ヒロインとストレートに連結している。ただ選択時に顔が見えないために心理的抵抗が少ないだけで、選択したという行為は残り、その僅かな棘が演出に利用される。その手つきは異常なまでにソフトだ。また、こう書くと「ファルシータのシナリオではトルタとファルの二者択一を迫られる選択肢がある」と思われるかもしれないが、この選択肢の目的は別にある。既に書いたように、ヒロイン選択はマップ画面でのみ行われる。AVG画面における、ヒロイン選択がなされた後のクリスの会話文の選択は、基本的に別ルートに分岐するためというより、ヒロインとの関係性を巡っての演出の色合いが濃い。ルート分岐に影響しない選択肢ということは、どちらを選んでもその後の展開に関係しない選択肢か、片方を選んだら「バッドエンド」に直行する「即死選択肢」か、どちらかである。これらの選択肢もまた、非常にわかりやすい、先読みがきく形で提示され、選んだという行為がシナリオ展開に色彩を与える。*3
このようにして、プレイヤーは特定ヒロインを選んだという事実について繰り返しやんわりと指摘されつづけ、意識を持たざるを得なくなる。のみならず、そうした演出に敏感に反応してしまうプレイヤー(俺のこと)ほど、シナリオの側に逃げ場を求めようとして深く読み込もうとし、シナリオの側からこれみよがしに提示されたトリックの糸口はプレイヤーに格好の逃げ場を提供する。主人公の元からいる恋人は、実は…? それは、プレイヤーにとって罪の意識の負担が軽減される、都合のいい事態である。プレイヤーはいよいよ目を皿にしてシナリオを深読みせんと試み、提示される情報に一喜一憂する。そうして逃げ道を求めて全シナリオを追いかけ、深読みに深読みを重ね、悪意の囲う茨の城に辿り着く。そして思う、もしもあのとき、たかだか二次元のキャラクターのどちらを選ぶかという程度の選択におびえることなく、ほんのささやかな自責を引き受けていたならば、仮想世界の、仮想のキャラクターたちの、現実には紡がれることのなかった生と想いの告白に、もうすこしだけ耳を傾けていたならば、僕はどうなっていただろう?
 
歌を聴こう。せめて、その音に、その声に、身をゆだねよう。

*1:http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200309.html#2

*2:リセのシナリオなど、シナリオの都合で第1校舎でストーリーが進行するときですら旧校舎のポイントを選択させる

*3:こうした選択肢の使用法は『Fate/stay night』の序盤に多用されているが、こちらは用法としてはぎこちなく、抵抗を感じた。