わっきー2

id:tdaidouji:20050419の続き

  • じゃあ「和月以前」とは何かというと、「漫画=少年漫画」がギリギリ通用していました。ジャンプが世界の中心で、ジャンプの所属する週刊少年誌がイコール漫画でした。少年漫画ではない漫画を少女漫画、青年漫画、マイナー漫画などと呼んでいました。「和月以後」は要するに80年代ジャンプの終焉を受け入れ中心核を失った漫画世界で、もはや中心ではないジャンプが何を描くかという問題提起を消化する時代です。現在もそう。ここで気をつけなきゃいけないのはサンデーやマガジンに掲載される作品はそうした問題提起を直接引き受けるわけではないことで。岡田斗司夫が『うしおととら』を少年漫画という言葉で語ろうとする時の失敗はそのズレから生じています。
  • ジャンプのライバルはマガジンやサンデーではなく、方向性の重なるモーニングやアフタヌーン(だった)。江川達也がモーニングからジャンプに移ってストレートに成功し、井上雄彦がジャンプからモーニングに移ってストレートに成功するのは理由の無い話じゃない。絵のインパクトを中心に作品が展開するのが共通する特徴で、id:tdaidouji:20050418#p1で書いたハッタリ中心、テクストより絵を重視、表層主義、は大体モーニング系にもあてはまります。『沈黙の艦隊』のやおい受けが良かったのも大人向けジャンプ漫画だからだと考えれば理解しやすい。一橋系の上層が漫画をあくまでサブジャンル、おまけとして、いわゆる「漫画はおかし」論で展開していたためか、一橋系マンガ雑誌がついにジャンプで育った漫画読み層の次の受け皿を用意できなかった(エロと暴力をエスカレートさせる以外の「大人向けジャンプ」を思いつかなかった)一方で、絵の論理を重視したモーニングがジャンプ世代の新たな受け皿として機能する。国会で取り上げられた漫画となってしまった『沈黙の艦隊』は、潜水艦戦における「やまと」の圧倒的強さと海江田の大言壮語に代表される各国首相や大統領ら登場人物のガン飛ばしが全ての理屈の根拠で、それらはロジックではなく画面の強さ、ハッタリで成立している。国際政治を絵のロジックで理解しているわけで、この路線の延長線上に漫画の絵のロジックで世相を語り政治を語り思想を語るに至った『ゴーマニズム宣言』がある。小林よしのりはジャンプ連載出身。あるいは『ナニワ金融道』のようなキワ絵によるビルドゥングスロマンも、ジャンプの一部の作品と同系統とみなせます。
  • ということでモーニング系列のアフタヌーンで連載されてる『無限の住人』と『るろうに剣心』との同時期スタートとその後の展開の変遷はそれなりに注目に値します。主人公の顔のタテヨコの傷まで同じなんだから、オタでメジャー漫画をまめにチェックしてる和月伸宏が全く意識しなかったと言ったら嘘だろう。
  • るろ剣の一話、「なぜ居着いたのだろう」というのが最初からの疑問で、それもまた「すぐ打ち切られる」という判断の働いた根拠でした。読みきりの時は諸国を旅する流れ者の設定で、流浪人と書いて「るろうに」と読ませる造語まで作ってるんだから、当初は諸国漫遊の時代劇ファンタジーのイメージだったはず。大体において少年は旅に出るものだし『無限の住人』にしてもマガジンのサムライリーパー漫画にしても定住なんてしてない。実際、バトル重視に切り替えたら京都に行くことになりますし、薫もきっちり追いかけてきます。
  • 武装錬金』で「賢者の石」が重要アイテムとして登場したときに『鋼の錬金術師』のパクリだと若い読者から指摘されて頭を抱えたそうですが、ハガレンの設定なんて『ベルセルク』のそのまんまフォロワーじゃねえか*1、という大人気ないツッコミはさておき、「錬金術」という題材の共通以上に、ハガレンにおいて通底する虚無の感覚は和月伸宏のそれと重なり合うように見えます。和月伸宏のそれは『るろ剣』2巻で漫画で書きたいこと伝えたいことをのっけに書き終えてしまって、後はもう大人な好奇心や興味の赴くままにやりたい放題やってしまってる(『るろ剣』3巻以降も『武装錬金』の蝶々仮面もやってる事は同じ)という了解の仕方だったのですけれど、それがガンガンの系譜にきちんと当てはまっているハガレンと一致してくってのは面白いです。
  • ガンガンという雑誌はジャンプにとって頭の痛い存在です。ファンロード出身作家である柴田亜美を最初の看板作家にしたのに見られるように、ガンガンは基本的にファンロード的なもの、たとえば「シュミの特集」でジャンプ連載作品の伏線ミスや絵のミスを徹底的にツッコミまくる体質、同人市場の持つ空気をきっちりと受け継いでいます。『魔方陣グルグル』はツッコミ体質の判りやすい例ですけれど、そうした、「わかってやってる」同人体質、ある意味で割り切ったドライな誌面で成立したのが『鋼の錬金術師』です。

…断定口調で書いてますが、いつもと同様、資料を揃えて書いてるわけではないので話半分でスルーしましょう。また続くかも。
>また続きました。id:tdaidouji:20050425#p1

*1:当然ながらハガレンに似てると評判の『 ZOMBIE POWDER 』もパクリと言って差し支えないぐらい『ベルセルク』入ってますし、同じく久保帯人の『 BLEACH 』の虚の設定は実に使徒っぽいですし、虚になる前の鎖の描写もベヘリットを思い出させますね