「ニュートン・ナイト」

ツィッタ上でもその他でも誰も言及しないので書いとこうかと。
 
公式サイト http://newtonknight.jp
 
社会派映画というジャンル分けに収まることを拒むというか、かなり力こぶの入った過激な映画。日本のキャッチコピーだと「黒人を率いた白人英雄」とか書いてるけど内容としてはもっとヤバい過激思想で、差別と闘うというか全米全方位に喧嘩売ってます。
原題は「ジョーンズ自由州」、南北戦争時に南部で蜂起した自作農集団の指導者の半生なれど南北戦争集結で話が終わらない。
終わらなさがヤバい。100年後もバトルが続く。観念的な「まだまだ黒人差別がある」とかじゃなくて、映画の中で、主人公の子孫が「黒人の血が八分の一入ってるのに白人と結婚しようとした」と結婚の無効を求めて訴えられる、その裁判のシーンが時折差し挟まれる。
これ、単なる「主人公の半生を描く映画」だとしたら余分なシーンなんだけど、そういう話じゃないんだよね。
 
映画を見た後、うーむ知らなかったなーとネット検索かけたんですね。そしたらウィキペディアの記事があったんだけど、これがヤバい。典型的な編集合戦でグネグネになった文章。

しかし、南軍脱走兵を捕まえるための「自衛」行動については疑問が残る(類似したことが映画と本になった『コールド マウンテン』に描かれている)。ヴィックスバーグが降伏した後、実際にユリシーズ・グラント将軍に釈放された南軍兵を再徴兵する試みがあった。南軍のこの裏面が熱烈に否定されることもある理由を理解できるはずである。とは言っても、ジョーンズ郡でそのような行動が起きたとは誰も言わないし、証拠も提示されていない。

どうも、編集ページを見ると英語記事からそのまま翻訳したと推測されるんだけど、最後は

「以下英語版の議論は詳細に入り、多少の偏りがあると考えられ、その評価が難しいので、翻訳は割愛する」
ジョーンズ郡 (ミシシッピ州)の記事
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E9%83%A1_(%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%94%E5%B7%9E)#.E6.AD.B4.E5.8F.B2

となってて、もうね、南北戦争を扱う際のゴタゴタがそのまま持ち込まれてる気配がアリアリでしてね。
念のために主人公についての英語版記事を以下に。
https://en.wikipedia.org/wiki/Newton_Knight
 
映画で100年後の裁判を無理でも挿入した理由が判ろうってもんです。戦いは終わってない。今も続いてる。映画もまた、思いっきりその戦いに足を踏み入れてる。ウィキペの編集合戦だろうが差別論争だろうが南部政治史だろうが、距離を置くつもりなんざ全くない。
 
一方で、映像としてどうかというと、出来がいいんだコレが。
沼地のシーンは神秘的だし戦場はヤバい。農民が立ち上がって南軍の収奪に立ち向かう姿はどっかのマグニフィセント7より余程に「七人の侍」っぽく、選挙投票なんかドンパチしかやらない今どきの西部劇よりよほど西部劇的な緊張感あふれる静けさがある。役者も文句なし。
主人公が盛り過ぎというかカッコよすぎという気もするが、まあガチのヒーローすよね。寡黙で他人のトラブルがほっとけなくて、差別にも貧富の差にも南軍にも北軍にも全方位に怒る。怒りに燃えて突っ走りすぎて言ってることが社会主義思想気味にすら。葬儀のシーンでは死者への追悼を主人公が述べるんですが、ほとんど宗教指導者的ですらある。
 
しかし、これねえ、映画評論としちゃ扱いに困ると思うよね。共和党にも民主党にも南部にも北部にもケンカ売って、物語として収まることを拒絶して現実に殴りこむ気が満々で単発の物語としちゃバランス崩れてて。評価するにはその「現実への干渉」に触れないわけにはいけない。
まあ、ともかく主人公が無暗にカッコいいから、ヒーロー物に飢えてる人にはお勧めしときたい。140分でPG12ですが。
 
追記
映画の公式サイトから飛べますが、映画とタイアップしてるキャンペーンが作品内容と全くかみ合ってなくて凄いです
野郎ラーメンとのタイアップ
http://www.yaroramen.com/#h20170201-2
・映画館限定メニューのコーヒー
http://moviche.com/contents/news/15424/