選挙中の政治家を信用するな『裏切りの戦場 葬られた誓い』

どうしましょう。大変に黒い方向に俺好みに名作です。2時間以上の長編なのに全く長いと思わないです。てゆか90分ぐらいだと思ってて映画館出てから経過時間にびっくり。散漫なようでいて芯がしっかりと通っています。今さらですが必見。
舞台は仏領ニューカレドニア、1988年に起きた「仏大統領選挙の真っ最中に起きた独立派勢力による人質事件」が題材。実際にあった事件の、その当事者の自伝を題材にしたノンフィクションの形式ではあります。
ですが、冒頭の長尺のシーンから始まって、随所にリアリティ路線というよりは映像嗜好と呼ぶべき作風が見て取れます。交渉役の特殊部隊として送り込まれた主人公たちが私服で現地に降り立った空港での、陸軍の制服部隊の行進との対比。随所に出るヘリを使った演出やアングル(なにせ「天国にいちばん近い島」なのですから撮影すればそのまま絵になりすぎる)。主人公の懊悩を背中から捉えたショット。クライマックスの長尺ワンカットで描かれるジャングルの戦闘シーン。どれもリアリティと呼ぶより映像の主張が非常に強く、欧州映画らしいなあ、と思わせるつくり。
にもかかわらず、現実があまりにもドラマティックすぎて、映像主導路線ではけしてありえない。パンフで監督(&主演&脚本)が「まんまシェイクスピアじゃないですか」などと語ってしまう程度には、事態はあまりにも劇的かつ滑稽で、出てくる台詞も「選挙中の政治家を信用するな」とか陳腐と言ってしまえば陳腐としか言いようのない古典的シチュと台詞がそのまま名台詞として強い印象を残してしまう。卑怯といえばあまりにも卑怯なノンフィクションの重み。
この映画を構成するあらゆる要素が鮮烈すぎて、ちょっと普通に感想を述べられる代物じゃないです。舞台は楽園とすら呼ばれるサンゴ礁の美しい南の島、歴史は欧州による植民地支配、人種差別に宗教文化問題、シチュエーションは大統領選挙の最中、右派と左派の対立、背後には冷戦構図。名誉欲にかきたてられる軍人、責任を回避したい政治家、あまりにも朴訥すぎる事件首謀者、現地信仰の聖地である事件現場、部下と上司両方への責任に囚われるシチュエーション。フィクションだったら盛りすぎだろってレベルの濃い素材てんこもりに対抗するには強い映像が必要だったんでしょう。結果、どれも手垢がついて今更と呼ばれそうな諸々だというのに、浮いてないです。むしろ現実の進歩してなさ加減ばっか気になると思います。「事件首謀者」であるアルフォンスの素朴すぎるほどに素朴な革命路線・西欧批判発言を聞いたときはアチャーて感じだったというのに。

日本語タイトルが酷いんですけど、客を呼べる内容じゃないんですけど、そろそろ上映終了になりそうなんですけど、素朴な「純真無垢な土人」描写すぎやしないかと心配しちゃうんですけど、今さら感想をあげてどうしようってんだと思われるかもしれませんけど、それでも、かなり稀有な作品だと思うので是非に見てほしいと思います。

公式
http://uragiri.ayapro.ne.jp/

以下、感想リンク
http://ism.excite.co.jp/art/rid_E1353468431074/pid_1.html
http://blogs.dion.ne.jp/orr_dg/archives/10997283.html
http://maseiga.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-82e2.html