甲田学人『断章のグリム〈1〉灰かぶり』(電撃文庫)

最初にちょっと違うよな、と思ったのは、作中の登場人物が他の登場人物の死の意味を引き受けてしまったら読者が引き受けなくてもよくなる、ということ。
次に、同じ世界内で人が人を殺すには、理由がちょっと綺麗すぎるかな、ということ。読者が作品世界内の登場人物の死を引き受けるのは、登場人物の死がそこに描かれているからであって、現実で「君の無念の分も生きてあげるよ」みたいなこと言って殺すのは、全くもって単なる殺人です。それが人間以外の異形であろうとも。つーか人類に仇なす異形だから滅ぼすしかない、てのは社会的要請によるものなんで、それを綺麗に飾り付けるのはどうかと。人間じゃないから殺人じゃない? うー、それ言うと話が無限に広がるんだけど。例の「ゴブリンは人間じゃないのか」問題。オタクはデータベース的動物であって人間じゃないから殺人の適用範囲外です、て話にもなるよね、哲学者が哲学的に人間の定義を考えて動物て言葉を提出してるんだし。そうした哲学的発言が実際の法解釈に影響を与えない、て考えるほうが不自然。
上記の感想を覆すには、フィクションの人と現実の人との区別が全くつかない状況に身を置いて発言することなんだけど、そうしたら小説ていう創作の意味そのものが揺らぐと思う。
メイン3人の関係は面白いと思います。3人の間のやりとりによって、上記のような、ちと欺瞞めいた部分へのツッコミがなされて話がこじれてくれれば面白くなるかな、と。でもそれは、フィクションと現実との関係とはまた別の問題になってしまいます。
文体はちと、もたつき気味に感じました。そこで心情説明しなくていいから、とか。多分、作者の得意としてるのであろうグロっぽい描写が、そこだけ突出してて継ぎはぎっぽく見えてしまうとか。そこで描写されるイメージは嫌いじゃないですが。
とりあえず、そんな感じ。