[ゲーム]『シンフォニック=レイン』

いい感じで脱線気味なのは6月だから。
「シナリオから語るべき作品じゃない」て言っておきながらシナリオの話ばっかりしてしまうのは俺がバカだからなだけじゃなくて作りがそーゆー作りだからです。メインである演奏パートはギャルゲー移植可能なエロシーンなみにコンパクトで、一方でシナリオはやたらと長いくせに恐ろしいほど節度を守っていて演奏パートに奉仕する以上のことを一切語らない。「歌を聴きましょう」「音を奏でましょう」ぐらいしか書けない。『To Heart』が(いろいろ雑音はあるものの)「普通の漫画に出てきそうな可愛い女の子のあられもない姿が見れること」に特化している以上の精度をもって、エロシーンならぬゲーム部分を修飾するためだけのシナリオが展開される。ところがそのシナリオの目指すのは上手く演奏すると点数が入る「だけ」のゲーム。「ゲームとシナリオ」の、最も原初的にして典型的な関係。それをこの密度で成し遂げたのはもちろん俺の好む職人気質的な態度のライターの仕事で、デモンベイン大好きーズや「アージュシナリオライターが明後日の方向に暴走するのがいいんですよ!」と力説する人や「麻枝准の意図を理解しない久弥直樹大好き!」と言ってはばからない人、総称して「言霊が暴走しないシナリオなんてシナリオじゃない」組の人たちには全くお勧めできません。平たく言うと「小説読みには向かない」作品。
 
以下ネタバレ。
比較しやすいのは、やはり『 Kanon 』だろうか。『 Kanon 』のタイトルが「カノン」であるのに合わせてのシナリオ構成であると解釈される*1のと同じように、本作もタイトルの「シンフォニー」であるのに合わせてのシナリオ構成であると解釈すると、少しばかりわかりやすい。
本作のシナリオ構成はなにしろ、要素分解しようとすると新しい要素というのが何一つとしてない。ノベルゲーの文脈をちょっと追いかけたらすぐに「元ネタ」的なものが発見されうるだろうし、シナリオライターもそれを充分に心得た上で為すべきことをなす。演奏ゲームとしての立ち上げもそうだし、TVアニメ等で名前の露出している出演声優の声の方向性に全く逆らわないのもそう。ほとんど職業ライターの鑑とすらいえそうな態度を維持しつつ、そのシナリオの透明性を最も有効に活用するために、複数のシナリオを互いに響かせ合う手法を採用する。登場キャラクターにおいて記号的外見や特徴的口癖などが排除されているのは「髪の色の賑やかさよりも重厚な雰囲気を目指したから」などよりもっと積極的に、メインとなる双子を筆頭に、互いのキャラクターの相似(と相違)を無理なく演出するための意図が込められている。
ノベルゲームの形式が商業分野では退行せざるをえない中で、こうしてエロCGの前座以外にも他のゲームシステムの演出として生き残って様々な演出手法を編み出していくというのは、個人的には非常に価値のあることだと思います。
続きは後日。