飯尾 憲士「艦と人」集英社文庫

ブックオフで100円。
国内溶接技術の導入者の一人で第二次大戦中に海軍で技官中将を務めた福田烈の伝記、の形をとったノンフィクション小説。
つまり「宮崎駿風立ちぬプラス艦これ」。
形としては、周辺の事実や資料を羅列することで、福田烈の人となりを浮かび上がらせよう、というもの。ただし成功してるとは言いがたい。
おそらく作者の脳裏にあったのは、溶接技術の研究および普及に没頭した技術者という側面、海軍中将として戦争遂行の直接の執行者であった側面、技官が用兵者(前線士官)の下風に置かれた帝国海軍の組織内で動かなければならなかった側面、といった相反する角度から人物を照らし出そうというプロットだったと思うのだけど、そこまで踏み込んで迫れてはいない。
なので、実際にあったエピソードを、イマイチ統一感のないまま羅列してるだけの話、という見た目になってしまっている。
さておき、軍事ネタ初心者としては、海難事故や作業工程上のトラブルなど、あまりキャッチーな話題とは言えないネタを様々に紹介してくれて、たいへん面白かった。
赤城の火災は防錆塗料が可燃性だったことが被害を大きくした一因だけど実はミッドウェーより前に指摘されてて塗料を全部ひっぺがさせた艦があったとか、人間魚雷回天のスペック表には航続距離じゃなくて射程と書いてある(魚雷だから)とか、小ネタ集として面白い。
戦闘の話は殆どしないままに艦艇の名前がいろいろ出てくるので艦これライトユーザー向け。
あと主人公となる人物の位置づけ、キャラ立てが「風立ちぬ」とまったく違うので(軍人と民間人、加工技術基礎研究者と設計者、等々)、対比すると興味深いかもしれず。