CUFFSの話など

だいぶ年数が経ったので整理。

F&Cで企画『ARIA』がポシャった後、いつの間にか水月コンビが独立して、いつの間にかブランド第一作を出したCUFFS。
「いつの間にか」というのが大問題。『水月』は、まがりなりにもオンリーイベント開催、アンソロジー集が発売されるなど当時も十分に知名度が高く、そのスタッフが独立したのだから、もうちょっとネットや雑誌で大々的に取り上げられても良かったはずなのが、2chをチェックしてる人たち以外は「え。いつの間に出てたの」レベルの宣伝。
しかもCUFFSのHPに掲載されたエロCGが、エロゲームック本で「水月」絶賛記事を書いてたネットレビュアーが「いいのか、これ・・・」とドン引きする代物。エッジが立ってたと言えば聞こえはいいが、ライトユーザーおいてきぼりの突っ張りぶり。
しかも、ソフ倫のチェックに引っかかり、件のCGや、おそらくシナリオ内容なども、修正を余儀なくされての発売遅れ。
内容の濃さは十分に満足いくものだったが、「宣伝不足」「ソフ倫修正」で、おそらくスタッフが期待するほどの本数を捌くことが出来なかった可能性が高い。
さらに、ヒロイン人数が少ないからという理由か価格はやや抑え目だった。
以上をまとめると、CUFFSは、おそらく1作目にして、製作費回収困難に陥ったか、少なくとも腰を落ち着けてじっくりと次回作を制作できるほどの資金回収ができなくなり、次作以降で製作スタッフが主導権を失っていく伏線になったと想像される。

  • 元から良くも悪くも主張やこだわりが強いスタッフだった

裏話レベルだが『水月ビジュアルファンブック』はスタッフがかなり拘って作ったそうで、そのおかげで内容は極めて充実したお得なアイテムだったが、編集者はかなり苦労したという。確かに商業出版じゃない『さくらむすびビジュアルファンブック』は、ほぼ『水月ビジュアルファンブック』の形式を踏襲していて、ブランドも出版編集も違うのにここまで同じってことは、『水月』の時点で自分たちの主張をかなり押し通して作ったんだろうな、と想像させる。
また『水月』発売時期のピュアガに掲載されてたスタッフインタビューでも、こいつらまだまだ無名だろうに凄いドヤ顔なインタビューだなあ、殆ど竜騎士07とタメはれるぞ、というぐらいに偉そう。ビジュアルファンブックのコラムも基本的に偉そうである。そんだけ自分たちの作ったものに自信があったということではあろうし、実際、それだけのものだったが。

ワンコとリリー』でシナリオやキャラCGは十分に満足のいく内容であったものの、背景CGの手抜き具合は、(某はネトゲにはまって仕事を全然しないらしい)という噂話とあいまって、ブランドの先行きの不透明さを暗示していた

インタビューやファンブックの発言、さらに作品内でのシナリオとよく連携のとれたCGなどからも、今どき良く聞く「シナリオ担当とCG担当が別々に請負仕事をしてる」のとは全く異なる、スタッフ間のコミュニケーションの良さを感じ取れる。
が、それはつまり一方の不調が他方の不調を呼び込む可能性でもあり。一方の仕事がある程度上がってくるのを、もう一方が待つ、もたれあい関係が、作業の遅れを増幅する可能性を想像させる。あくまで憶測だが。

  • 『Garden』の塗り

公表されたCGの塗りが酷いということで迷走ぶりが表ざたになり(後日差し替え)、ファンにもっとも大きな衝撃を与えた案件。
たぶん、このあたりで大幅な作業遅れに上のほうからメスが入ったものと思われる。

  • 音声つきを採用

『Garden』シナリオは音読にきちんと意味を持たせるものだったが、そうしたこだわりがシナリオ作業に大きな負荷を与えた可能性が高い。

  • 発売前『Garden』の「ふつうのエロゲーっぷり」

オープニングとして公開されたムービーは、いかにも外注のFLASHムービー職人に素材だけ渡して作ってもらいました(しかも素材はあまり足りてません)風の代物で、『水月』『さくらむすび』のOPムービーの路線とは全く異なるものだった。製作スタッフが主導権を失っているのが見て取れる。おそらく雑誌やネットで「宣伝するにはOPと称してプロモムービー見せるのが必須ですよ」とでも言われて作ったのだろう。

  • 体験版

床屋で伸び放題だった前髪を切るシークエンスは言うまでもなく前髪で目線が隠れてる古典的な「プレイヤーの分身」としてのエロゲ主人公から、プレイヤーから独立した主体を獲得した主人公への転身で、それの意味するところは「未踏の領域への挑戦」だった(シナリオ構造的な意味で、主体を獲得した男性主人公を使っての分岐ノベルシナリオのコントロールに成功した作品は未見)。それは間違いなくタイトル発表時に期待していたものだったが、度重なる悪材料の果てに提示されたチャレンジは破綻への不安をかきたてた。

  • 狂乱の初回特典祭り

正直、事前情報は悪い話しかなく、期待は窄まるだけ窄まっていた。というか、開発中止やブランド解散は十分に想定範囲内で、だからこそ「マスターアップしてました」発言は「開発中止を免れた」という視野狭窄の安堵感をもたらしたのだろう。

  • シナリオ分業

発売後に判明。
水月』『さくらむすび』『ワンコとリリー』、いずれも複数のシナリオ分岐に相補的な連続性を持たせ並列的/立体的に読ませるものだったので、シナリオ分業は言うまでもなく回復不能の致命的失敗だった。このシナリオ分業という決定・判断について怒るとしたらノベルゲームの分岐シナリオを小説のように読ませるものとしてしか理解しなかった人たち全員、つまり全人類に対してであった。「瑠璃シナリオ」という言い方をして省みない人や「シナリオライターの作家性」を発見しようとしたレビュアーも当然含む。

  • CUFFSに対し批判するとしたら

ディレクターにあたるスタッフが機能せずゲームデザインシナリオライターに丸投げしていたであろうこと。ノベルゲームをゲームだと思っていないこと。たんにCGと文章で埋めれば商品になると思っていること。
つまりは業界の典型的な、という印象しかないのでエロゲ業界は屑ばっかりですね、と。
もっと直接に、プロジェクトの破たんを認めて販売前に開発中止しなかったことを責めるべきではある。自分たちも「売り物ではないものを売った」という負い目を感じているだろうから、代品を提示しているのだろうし。

エロゲのシナリオライターは「作家性」など見出せるものなのかといえば、ギリシャ彫像と浮世絵ぐらい小説とは基盤が異なるノベルエロゲのシナリオに近代小説評論もどきの感想文を持ち込んで発見する作家性なるものが意味があるわけもなく。
単に期日までに仕事をあげなかった不始末を責めるべきである。
作家などと。は。
あるいは、直接的には、シナリオ分業を決定した後で、個別ルートによるフォローが可能と考えてしまったこと、か。追いつめられて技術的な判断が出来なくなっていたのだろうが。

  • そもそも中身が違う・まともにプレイできないのは不良品だろう

販売直後にソフマップやメッセが不良品として返品を受け付けるのが、本来の筋ではあった。
それを避けるために売ってからシナリオ補完という手段に走ったのだが。
バグだらけのゲームを出して事足れりとしてきたゲーム業界(プログラム業界というべきか)は屑ばっかりですね、と。